6人が本棚に入れています
本棚に追加
想いは空を染める
(1)
小学校の運動会。
子供たちは張り切って競技に参加してる。
それにひきかえ……。
誠達は小学校の運動会を宴会と勘違いしているようだ。
桜子が何度注意しても止める気が全くないらしい。
誠を止める神奈もまた飲んでいた。
僕と愛莉は飲まなかったけど誠達は、子供たちがお昼に弁当を食べる前におかずを食べつくすという無茶苦茶な事をしている。
しょうがないから余分に作っておいたおかずを誠司に分けてあげる。
冬吾と冬莉も大人しくご飯を食べている。
そして午後の競技が始まる。
父兄参加の競技もある。
誠達は寝ている。
何しに来たんだ?
しかし僕達くらいの歳で若い親を相手にするのは結構辛い。
愛莉も大変そうだった。
「冬夜さんもたまには運動しないと駄目ですよ」
愛莉は笑ってそう言った。
競技が全て終わると誠達を起こして家に帰る。
「冬夜。冬吾達はどうだった」
父さんが聞く。
「ちゃんとカメラに収めておいたよ。今夜でもゆっくり見ると良いよ」
「悪いな」
「愛莉!いつもの事だ!今夜は焼肉だよな!」
天音は弟の競技よりその後の夕食の方が重要らしい。
冬吾達が帰ってくると着替えてそして少し休ませてやってから起きてくると焼肉屋さんに連れて行く。
冬吾や冬莉は相変わらずの活躍だった。
徒競走はもちろん他の個人種目や団体種目。最後の対抗リレーまでしっかり活躍していた。
その分2人ともしっかり食っていたけど。
僕は最近食べる量が減って来た。
自分で実感するくらい減って来た。
その分お酒の量が増える。
泥酔はしなかったけど。
「トーヤもやっと酒の楽しみ方を覚えたか」
カンナがそう言ってた。
「冬夜さん、少しお酒を控えてください。体に悪いですよ」
愛莉に注意される。
「今日は帰ってからのお酒はだめですからね」
「いや、愛莉ちゃん。こういう目出度い酒は滅多にないんだから……」
父さんが言うけど愛莉は受け入れない。
「冬夜さんは明日仕事なんです。お義父さんも仕事ですよ」
「はい……」
片桐家は女性に逆らえない。
まさにその通りだった。
だけど愛莉の意図は大体わかっていた。
家に帰って風呂に入るとテレビを見て寝室に行く。
ベッドに入る愛莉の上に覆いかぶさるように抱いてやる。
「今日は飲み過ぎたようだ。愛莉が介抱してくれないかい?」
「……困った方ですね」
愛莉は嬉しそうだった。
「今頃空はどうしてるのでしょう?」
愛莉がふと漏らす。
「きっとうまくやっているよ」
そう答える。
楽しい同棲生活を楽しんでるはずだ。
思い出したようにベッドを出ようとすると愛莉が抱きしめる。
「今夜は甘えさせてくれるんじゃないのですか?」
「いや、ちょっとは父親らしいことをさせてくれないか?」
「どうしたのですか?」
スマホを取ると翼たちにメッセージを送る。
「正月くらいは一度挨拶に着なさい。母さんが寂しがってるよ」
それを愛莉に見せる。
「寂しがってるのは冬夜さんも一緒なのにずるいですよ」
そういって僕を抱く。
「まあ、寂しい愛莉を慰めてやるのが僕のつとめだよね」
「じゃ、そうしてください」
愛莉はそう言って目を閉じる。
その表情はとても綺麗な物だった。
(2)
「ちょっと遊!この人誰!?」
学校でなずなは俺にスマホを突きつけ問い詰める。
粋も花に同じ様な状況にあっているようだった。
多分小泉優や如月天も同じだろう。
SHにはバイク乗りが少ない。
まあ、バイクが好きって人が少ないんだろうから仕方ないんだろうけど。
だから別のバイクのグループに混ざってツーリングを楽しんだりしてる。
その事はなずなも知っていた。
その画像はそのバイク乗りの女性とツーショットで写真を撮っていた者だった。
「バイクは許すけど浮気は許すとはいってないよ!」
「放課後説明するから落ち着け!」
どうして放課後かって?
さっきも言ったように一つ年下の奏や要も一緒だからまとめて説明した方がいいだろ。
とりあえず怒り狂うなずなを宥めてこの場を収めた。
別に、束縛されてるとかそんな気はしない。
それだけ俺を大事に思ってくれてるんだと嬉しくなる。
だから誤解は解いてやりたい。
そして放課後2年のクラスに俺達は集まった。
恋や沙奈、瑞穂もいる。
そして説明をはじめる。
あれは夏菜休みの事だった。
暇だったのでバイク組とツーリングに出かける。
そして途中道の駅でその女性に出会った。
大人のボディラインを強調するその女性はヘルメットを取ると頭を振る。
黒くて長い艶のある髪が靡いて一瞬で目を奪われた。
それは恋とかそういうのじゃなくてアイドルに憧れるそれに近かった。
だから折角だから写真撮ってもらおうぜ!
そう言いだしたのは俺だった。
そしてお姉さんに挨拶をして一緒に写真を撮ってくれないか頼んでいた。
「それってナンパか?」
そういってお姉さんは笑っていた。
「ち、違います。ていうか俺達彼女いるし」
「それはよかった。私も彼氏いるんだよね」
ちょっと残念に思ったのは内緒だ。
話がややこしくなる。
「康子、そいつら誰?」
男の人が来た。
逞しい体つきのかっこいい男性。
女性の名前は康子って言うのか?
この人が康子さんの彼氏?
「ああ、紹介するね。私の彼氏の泉映司。映司。この子達私と写真撮りたいんだって。私もまだ衰えてないみたい」
「その格好がそう思わせてるだけじゃないのか?」
「自分の彼女をそういう風に言う?普通」
「ああ、すまん。まあ写真撮るくらいなら良いんじゃないか?連絡先とか聞いてきたらさすがに俺も黙ってないが」
危なかった。
さすがに勝てそうにない。
そのあと康子さんとツーショットで写真を撮ってもらって昼食を一緒にした。
映司さん達はグループで月1くらいでツーリングに出るらしい。
映司さんは実業家らしくて趣味でバイクを運転している。
2人ともちゃんと車も所有しているそうだ。
皆と相談して俺達もグループに入れてもらうことになった。
グループの名前は「雪華団」という。
また際どい名前を付けたな。
今度秋にでもまた山に行こう。
そんな話をしていた。
そしてその事を要がSHで話して「どんな人だよ?」と聞かれて画像を載せたところから事件になった。
そして今に至る。
「バイクのグループね……」
なずなはやや不満そうだが女子は納得はしてくれたみたいだ。
「他の女の人いないの?」
花が聞くと「いない」と答えた。
タンデムは危険だから禁止。
雪華団のルールだ。
説明が終ると僕達は家に帰る。
なずなは帰宅途中も黙っている。
待ち受け画像にしたのはまずかったか。
せっかく撮ったけど仕方ない。
さらば!
「なずな、ちょっと待って」
「どうしたの?」
なずなは自転車を降りた、
俺はなずなの目の前で康子さんとのツーショット写真を削除した。
「別にそこまでしなくてもいいのに」
「なずなの不安を煽ってまで残して置く物でもないだろ?」
「そう思うんだったら。最初から撮るな!」
本気で怒ってはいなさそうだ。
「でも、楽しそうだね。タンデムはダメなんだっけ?」
「うん、運転してる方も危ないから」
「私も2輪免許取ろうかな」
「そういう楽しみはもうすぐ車届くから待ってよ」
夏休みの間に免許はとった。
「最初に私を乗せてくれる?ちょっと怖いけど」
「もちろん……それに」
「まだ何かあるの?」
「免許が無くてもなずなを乗りこなすことはできるよ」
なずなは黙ってしまった。
余計な一言だったか?
だけどなずなは笑っている。
「そうだね、クリスマスイブにでも家に泊まりにこない?」
「いいの?」
「遊の家だと恋がいるでしょ?恋だって兄弟が家に居ると要呼びづらいでしょ」
家の中を裸で歩き回る恋が気にするとも思えないけど。
父さんは喜んで見ていて母さんに怒られてるけど。
まあ。学生がそういう事を出来てる場所なんて限られてるよな。
「親は大丈夫?」
「さあね、私の声結構響いてたみたいだから気づいてはいるみたいだよ」
まじかよ。
でも逆を言えば今さら気にする必要も無いって事か?
「避妊だけはしろって母さんには言われた」
「そ、そのくらいわかってるよ」
「じゃ、取りあえず帰ろう?」
「そうだね」
「……私よりスタイルよさそうだったね。その康子さんて人」
また意地悪な質問してくるな。
「相手は大人だぜ。それになずなのスタイルも負けてないよ。誰よりもなずなの体を把握してる俺が言うんだから間違いない」
「……馬鹿」
嬉しそうになずなは笑っていた。
(3)
「じゃ、くれぐれも安全運転でね」
輝夜のお母さんが言う。
「行ってきます」
そう言うと俺は助手席に輝夜を乗せて出発する。
空からお勧めのドライブコースを聞いていた。
やっぱり市街地に出て海岸沿いを走って別府に出て別府から山を越えて湯布院に出てから国道を通って帰るのがベストみたいだ。
昼食は途中で食べたらいい。
免許をとってちょうど一ヶ月になる。
1人で近所を走って練習はした。
免許を取るときはMTで取った。
昨日納車されたばかりの新車だ。
練習は父さんの車でしていた。
父さんの車はクラッチのつなぎ方が難しくてよくエンストしてた。
それに比べたらATのこの車は左足が暇している。
輝夜に格好いい所見せようと思ったらやっぱりMT車なのかな?
「この車乗り心地良いね。車高もちょうどいいくらいだし」
輝夜の感想は俺が思っていた事と反対だったみたいだ。
「でも、やっぱり男はMT車乗りこなすものじゃないのか?」
「そりゃ、地元で就職考えるならMTで免許取った方がいいけどデートと仕事は別だよ」
渋滞なんかで忙しなくギアチェンジしていると話しかけづらい。
それが感想なんだろうか。
「あとさ、スポーツカー乗ってる人って発進するときやけに空ぶかしするか急発進するかのどっちかでしょ?」
確かに父さんの車に乗るときは最初少し回転数上げてからじゃないとエンストする。
要するに普通の車より運転が下手くそに見えてしまうらしい。
それにスポーツカーは車高が低い上に幅が広いために大股を開かなければならない。
それに屈んで降りるから胸元を見せる事になる。
輝夜は穿かないけどミニスカートだと周りの人間にサービスすることになる。
そんな姿を俺以外に見せて平気なのか?と輝夜は言う。
なるほどなと納得した。
女子同志で話をするらしい。
運転する男の人ってどうしてルームミラーやサイドミラー、今だとバックモニターがあるのにわざわざ後ろを振り返って片手でハンドルを握っているのだろう?って。
そういう男の姿に女性は憧れるとなんかの雑誌で読んでいたけど違うようだ。
そんな真似をして一発で駐車を決めてどや顔されても困るけど、何回も切り返ししている姿を見たら反応に困るそうだ。
「勝利がさ、私がブランド物の服とかで固めてたら『お金浪費してるな』って思うでしょ?それと同じだよ」
どんなに高速で旋回できてもストレートでスピードが出せても法定速度という制限がある以上その境地に達することは一生無い。
それに挑むような無謀な運転する男は彼女を大事にしてない証拠だから絶対に乗るなと輝夜の母さんに言われたそうだ。
「私はゆとりがあってこうしてのんびり話が出来る勝利の車も運転も好きだよ」
そんなに奇抜な形をしているわけでもないし空でも飛ぶ気かと思うような翼もついてないこの車を気に入ってくれたようだ。
昼頃には湯布院に着いた。
湯布院を散策しながら昼食を食べて地元に戻る。
途中で足湯に浸かったりソフトクリームを食べた。
そして渋滞に捕まる。
その間も輝夜が僕に話しかけてくれるので退屈はしなかった。
ラジオの内容の感想を話したりこの曲よく聞いてたとかそんな話。
女子という言う生き物は楽しいときは良くしゃべってくれるらしい。
地元に戻ると夕食を食べて輝夜を家に送る。
「もう少し遅くてもよかったのに」
そんな不満をこぼす。
「どこか行きたいところあったの?」
「いつも親の目を気にしながらするのは勝利はいやじゃないの?」
ああ、そういう事か。
「またの機会にするよ」
「じゃあ、今日はこれで我慢してね」
そう言って輝夜は俺とキスをすると車を降りる。
「またね~」
俺は家に帰る。
「初めてのドライブデートはどうだった?」
今日は母さんも休みだったみたいだ。
「楽しかったよ」
「ドライブデートってね、男性が思っている以上に女性は色々な視点から見てるから初めてが大切なのよ」
母さんは父さんの荒い運転に不満だったそうだ。
「輝夜は楽しんでたから多分大丈夫だと思う」
「そう、それはよかった。じゃあお風呂入って休みなさい」
風呂に入るとどうやら無意識のうちに緊張していたらしい。
全身の力抜けてゆったりして思わず寝てしまいそうになる。
部屋に帰ると輝夜にその事を話した。
「じゃあ、次のデートの時にはマッサージしてあげるね」
次は紅葉でも観に行くかな。
そんな事を考えながら紅葉の名所をネットで探していた。
(4)
今年は岡城址に決めた。
SHの紅葉狩り。
僕と水奈は毎年夢大吊橋でもいいんだけど皆は色々見て回りたいらしい。
いつものコンビニに集合すると列を作って竹田に向かう。
竹田の道は狭く、そして駐車場も多くない。
幸い岡城址には駐車場がある。
城址というだけあって城は無い。
地元で城が残っているのは杵築城と臼杵城くらいか。
岡城址と言えば荒城の月。
スイッチを押すと荒城の月が流れる装置がある。
竹田まではそんなに時間がかからない。
そして何時間も紅葉を楽しむ場所じゃない。
この後どうするか皆と相談する。
特に揉めたのが昼食の場所。
「竹田まで来てラーメン食べるわけ!?」
「それを言ったらピザだって一緒だろ!?」
「豆腐料理なんてお腹にたまらないよ」
皆それぞれの主張を展開する。
しかし結局女性陣の意見を尊重するのは大人も子供も変わらない。
ピザ屋に決まった。
メニューを見るとまさに料理屋さん。
あまりジャンルにこだわらない料理が沢山あった
他のカップルはピザをシェアして食っていたけど僕と翼は違う。
ピザを一枚ずつ頼んで半分ずつしてさらに焼き肉屋らピラフやらを頼んでいた。
最後にノンアルコールワインソフトを食べる。
ジュースを飲みながらこの後どうするか相談していた。
朝地から山を越えて地元に戻りSAPで遊んで帰るかってことになった。
僕達の世代には走り屋のような車を運転する男性はいない。
どんなにいい車に乗っても善明の車には勝てないのだからそうなる。
その善明も凶悪なスペックを誇るBG社の車ではなく、P社の車で来ていた。
外車には変わらないんだけど。
SAPに着くとすぐにカラオケに入る。
僕と翼が食べ物を注文するついでに皆の飲み物を注文していた。
念の為に言っておくけどここに来る前に美希がパーティルームを予約している。
パーティプランだから当然料理は最初からある。
しかしポテトやから揚げだけでは満足しない。
ラーメンやカツ丼があるのに食わないという手はない。
食べに来たのか歌いに来たのか分からない状況で僕達は楽しんだ。
カラオケが終るとファミレスで夕食を食べる。
「イブはともかくクリスマスはどうする?」
光太が言う。
「忘年会ついでに集まろうか?」
「場所は任せてうちのホテル予約しておくから」
学と美希が言うとそれで行こうとみんな賛成した。
夕食が済むとみんな解散する。
家に帰ると風呂に入って部屋で寛ぐ。
正月くらいには母さんに顔を見せてやれと父さんからメッセージを受けていた。
お年玉たかりに行くみたいで気が引けたけど父さんが来いと言うのだから行った方がいいだろう。
年越しはどうするのかまだ考えてなかった。
水奈も受験もあるし出かけるのは辞めた方がいいかな?
水奈に相談してみた。
「イブの予定も決めてないのにまだ早いよ」
水奈から返信が来た。
「やっぱり水奈はイブくらいはお泊りしたい?」
「うーん、受験もあるし食事だけ外で食べて、空の家に泊まるよ」
じゃあ、美味しいお店探しておかないとね。
「本当に泊まるだけでいいの?」
「空ってそんな意地悪言うようになったんだ」
水奈は拗ねてしまう。
「まあ、水奈も毎日頑張ってるからイブくらいご褒美だね」
「私だけがご褒美なのか?」
「じゃ、プレゼントに水奈をもらおうかな?」
「それは無理な話だ」
「どうして?」
「だって私はもう空の物だぞ?」
「そうだったね」
「そうだよ」
もう衣替えも終わり11月に入ろうとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!