言葉より確かな歌で

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言葉より確かな歌で

(1) 今年も九重に来ていた。 子供たちは夢バーガーを楽しみにしている。 一応紅葉を見に来ているんだけどね。 愛莉に怒られながらも天音のの暴飲暴食は止まらない。 皆は吊橋を渡っている。 何度来ても飽きない風景。 四季それぞれの風景が楽しめるらしい。 つり橋を渡って天音達は夢バーガーを堪能するとランチにいつものレストランに行く。 今年は子供達もずいぶん減った。 空と水奈、学に美希、善明と海璃、勝利と輝夜もそれぞれ車を手にして自分たちで観光に行っている。 来年はもっと減るだろう。 子供たちが巣立つ時期が来たんだ。 水奈も週末は空の家に入り浸ってるらしい。 誠はそれを寂しそうに語っていた。 「今からそんなことでどうする?水奈ももうじきしたら家を出るんだぞ」 「別に家を出なくても家から通えばいいじゃないか!」 「水奈は今まで我慢してきたんだ。少しは水奈の事も考えてやれ」 「娘なんて持つもんじゃないな……」 「その言葉、絶対に水奈の前で言うなよ」 「冬夜はわかってくれるよな?この男親の寂しさってもんが」 「ごめん、分からない」 僕ははっきりと言った。 「翼と空はもう家を出て行った。天音も来年には家を出る。でもその前に皆将来を預けるパートナーを見つけている。その時点でそういう気持ちは過ぎたよ」 もう子供は子供じゃなくなっているんだ。 親離れする時期が来ただけ。 僕達に出来る事はそれを悲しむことじゃなくて温かく見守ってやること。 時には厳しく当たらなきゃいけない。 「僕も美希を嫁に出さなきゃいけないんですよね」 石原君もやはり寂しいのだろうか? 「あら望?まだ美希の花嫁姿見てないでしょ。お願いだから泣くなんてみっともない真似やめてよね」 「それは分からないよ恵美。恵美の父さんだって泣いてたじゃないか」 「うちの善明はもう、彼女の運命背負ってしまったよ」 酒井君が言う。 あの2人の方には地元経済がかかっているんだろうな。 大変な大学生だ。 社会人になったらもっと大変なんだろうな。 2人とも新卒で社長らしいから。 「大地!分かってるでしょうね!あなたにも同じ事が言えるのよ!天音ちゃんを泣かせるような真似したら絶対に許しませんからね!」 恵美さんが大地に言い聞かせてる。 大地は少し困ってる。 そんな事したらまず天音が怒り狂うだろうな。 2人とも店を継ぐと思っていたら妹の茉里奈はフランスに移住したいと言い出した。 それはショックだったんだろう。 でも本場で道を究めるという娘の意思を尊重したらしい。 言葉が通じない世界に飛び出すわけだけど交際相手のヘフナーが英語とフランス語を教えているんだそうだ。 教科書を読むよりも役に立つ外国語が身につくだろう。 昼食を食べると地元へ戻る。 「天音も免許取ったもんね」 「もちろん、もうすぐ納車されるはずだ」 それを思いっきり弄るつもりらしい茜。 天音もきっと空と同じようにどんな車も乗りこなすだろう。 多分限界とかもわかってるだろうから大丈夫。 とはいえ、愛莉はやはり不安だったみたいだ。 何かアドバイスしてやらないとな。 「茜は天音の車を弄るそうだね」 「そうだよ」 「一つだけ言わせてもらえないかな?」 「なに~」 「多分茜たちは吸排気系の交換、それにタイヤのインチアップを図ってると思うんだ」 「よくわかったね」 「まあ、エアロは最初からついてるのを買うだろうしサスなんか替えるとクッション悪くなるしね」 天音の欲しがってくる車は最初からタイヤのサイズは大きいだろうけど。 天音は峠を攻めるようなことはしないと約束しているだから旋回性能にそこまでこだわる必要がない。 だったらやる事は限られてくる。 「吸排気系はせめて素材を変えるくらいにしておきなさい。音が大きいからとむやみにデカいマフラーをつけてはいけない」 逆にトルク不足を招く事になるから。 ECUを弄って燃費の悪化を招くようなことをしてはいけない。 タイヤのインチアップも同じだ。その分燃費が悪くなるしクッションも悪くなる。 恐らくギアもクロスミッションに換装しているだろう。その分操作が忙しくなるという事を覚悟しておきなさい。 ギアを弄ると加速は良くなるけど最高速度の伸びは悪くなることを覚悟しておきなさい。 100キロあたりから悪くなるらしいから。 「……意外と難しいんだね」 「でも茜は僕の車を見事に調整してみせた。何も高価な部品を買って弄る必要は無いよ」 車には個体差がある。 それを天音に合うように変えてやりなさい。 乗り心地も天音と相談だね。 どうせ天音はデートには大地の車で行くのだろうから。 「冬夜さんは子供になんてことを教えてるんですか!」 「この子達はダメだと言ってもきっと弄るよ。だったら最初にアドバイスしておいた方がいい」 愛莉は納得してないようだ。 地元に着くとファミレスで夕食を食べて解散する。 そして家に帰ると皆が風呂に入って部屋に戻る。 僕達も時間になったら寝室に戻る。 「冬夜さん一つだけお聞きしてもいいですか?」 愛莉が何か聞きたい事があるようだ。 「なんだい?」 「本当に娘が嫁いでも寂しくないですか?」 「全くと言ったら嘘になるかな。でも愛莉のお父さんが言ってたことが分かる気がするんだ」 ここまで立派に育てたんだからあとは胸をはって相手に委ねよう。 幸い相手の事はよく分かっている。 「……一番寂しかったのは娘が大人になったんだなと実感した時かな」 「冬夜さんは私が寂しい時慰めてくれると仰ってくださいました。私も同じことを冬夜さんにしてあげます」 「ありがとう」 嫁入りか。 もうそんな時期が来てるんだな。 あっという間だった。 ゆっくりでも時は確実に刻まれていくんだ。 そんな事を実感していた。 (2) 「わあ、かっこいい車だね」 若い女性二人が俺の車をべた褒めしてた。 そこそこ綺麗だ。 今日はこの二人でいっか。 「俺の車気に入ってらもらえた?」 俺はその2人に声をかけていた。 女性二人はこちらを見る。 「あなたの車なんですか?」 「まあね、良かったら乗り心地も確かめてみない?」 「え、乗せてくれるんですか?」 「君達みたいな綺麗なお嬢さんなら大歓迎だよちょっと付近のドライブしないかい?」 「でも、この辺夜物騒だし……」 丁度日が暮れる頃だった。 この辺は時代錯誤も甚だしい暴走族が走り回ってる町。 「大丈夫、こうみえてもこの辺じゃ顔が聞く方でね。ちんけな暴走族くらいどうとでもなるよ」 「や、やっぱりやめときます。知らない人の車乗るのもなんか怖いしね」 「い、行こっか」 そう言って2人は逃げるように立ち去っていた。 もったいぶりやがって。 あとで二人も試乗させてもらおうと思ったのに。 その直後2人が立ち去った理由が分かった。 俺の車の周りを族車が取り囲んでいる。 「どうも、そこらへんのちんけな族です」 「こ、こんにちは」 震えを抑えて車に乗ってその場を去る。 しかし族は追いかけて来た。 振り切ろうとアクセルを踏む。 しかしついてくる。 そして右を走っていたバイクは前を指差す。 前を見ると電柱が立っている。 だめだ、避けきれない。 車は電柱に追突する。 割れたフロントガラスから俺を引きずり出す。 「た、助けて」 もちろんそんな俺の細やかな願いを聞いてくれるはずもない。 「お前みたいな金持ちのお坊ちゃんがムカつくんだよ!親の力でしか何もできないくせによ!」 君達だって親に頼って生きてるんじゃないのか? そう思われながら俺は袋叩きに合っていた。 車が派手に砕けている音が聞こえる。 車のボンネットに乗っかかり鉄パイプで屋根を叩いてる男がいた。 「スーパーカーがスクラップカーだぜ!!」 何がおかしいのか分からないけどそんな事より自分の命を心配した方が良さそうだ。 すると男たちの暴行が止まる。 警察が来たのか? そのくらいでやめるような奴等じゃない事は知っていた。 県内じゃ有名な暴走族だから。 奴等が行動を止めた理由を知る前に俺は気を失っていた。 (3) 今日のツーリングは宮崎まで行っていた。 行きは国道を走って帰りはバイパスを使って帰る。 バイパスを通ると三重町を通ることになる。 三重町はまだFGの支配エリアだ。 こんな田舎にわざわざ喧嘩を売りに来るほどSHも暇じゃない。 厄介ごとに巻き込まれなければいいけど。 巻き込まれてしまったようだ。 リーダーがそれを発見する。 運転手を引きずり降ろして暴行を加え車をボコボコにしていた。 先導していたリーダーがバイクを止めると皆止める。 「これは何の真似だ?」 リーダーはそいつらに声をかけた。 そいつらは黒い特攻服を身に着けていた。 堕天使と背中に刺繍されている。 「てめえらには関係ねえ、大事なバイクが壊されたくなかったら黙って消え失せろ」 「はい、わかりました」と素直に言うリーダーじゃない。 「全く最近の若造は口の聞き方も知らないのか」 「お前達みたいなのがいるからバイク乗りのイメージが落ちる一方なんだよ」 皆やる気みたいな。 俺はその中に多分いる知り合いを探していた。 やっぱりいた。 「勝次、久しぶりだな。こんな山の中で威勢を張っていたのか。ますますお山の大将っぽくなったじゃねーか」 「ガキ!うちの頭に喧嘩売ってるのか?」 「買ってくれるなら売るぞ?勝次に聞いてみろよ?」 勝次は俺達を見て怯えている。 「遊、知り合いなの?」 康子さんが聞いてきた。 「知り合いってわけじゃないですけど。分かりやすく言うと天敵ですね」 分かりやすく説明したつもりだった。 「どうする勝次?やるか?俺達は天音からやるなとは言われてない」 「……お前ら引き上げるぞ」 勝次がそう言うとそいつらは立ち去って行った。 「なんだ?こっちはやる気だったのに。しらけちまったな」 粋が残念そうに言ってる。 「余計な時間食った。俺達も帰ろうか」 リーダーの映司さんが言うと俺達も先に行く。 相変わらず蔭でこそこそして真っ黒な格好してまるでゴキブリか? (4) 「いらっしゃいませ」 いつもの少年がやって来た。 いつものケーキを一つ買って帰る。 「ありがとうございました」 毎日ある風景。 最初は同僚の東山吉生の恋人、相馬絢香達と一緒にやって来た。 それから毎日通うようになった。 「あ、こいつ佐竹純平っていうんだ」 相馬絢香の友達片桐天音が教えてくれた。 純平の目的がケーキじゃない事だってのに気付くのにそんなに時間がかからなかった。 彼の笑顔を見ていたらそんなのすぐに気づく。 それは店の他のスタッフも一緒で彼が来たときの接客が私がするようにしていた。 しかし彼はまだ高校生。 歳の差なんてそんなに関係ない。 私は別にお堅い仕事に就いてるわけじゃない。 ただの菓子職人。 それなりに恋愛も経験してきた。初めてってわけじゃない。 彼がバイトしてるのかは知らないけど毎日ケーキを買うのは懐事情に良くないんじゃないのか? そんな心配をしていた。 その事を仕事が終わった後お店のスタッフと相談していた。 ケーキを買っていくだけの少年を出入り禁止には出来ない。 どうするべきか悩んでいた。 吉生が言った。 「杏はどうなんだ?年下はダメなタイプか?」 「別にそんなことは無い」 今時珍しいくらいに純粋な少年だ。可愛がってやりたいくらいだ。 「なら、話は早い。今度火曜日仕事後予定空けておけよ」 水曜日は定休日だ。 元々予定なんてない。 「でもどうするの?」 「杏は今彼氏いないだろ?とりあえず話だけでもしてみろよ」 「どうやって連絡するの?」 「絢香に今頼んでる」 そう言って吉生はスマホを触ってる。 そして火曜の放課後駅で待ち合わせした。 制服姿の絢香と純平がいた。 「いつもありがとうね」 「い、いえ……」 女性と喋るのも慣れてないんだろうか? 純平は俯いている。 2人ともやけに荷物が多い。 どうしたんだ? 吉生も不審に思って絢香に聞いていた。 「吉生明日休みなんでしょ?じゃあ今日泊まっても問題ないよね?」 以外に大胆な子なんだな。 ってことは……。 「純平君もそうなのかな?」 「皆にそうしろって言われて……」 なるほどね。 「とりあえず夕食でも食べようか?」 「何食べるの?」 「パスタとか嫌いか?」 「全然!」 吉生と絢香は仲良く話してる。 それを見とれている場合じゃない。 「純平君は苦手な物とかあるの?」 「魚がどうも苦手で」 なるほどね。 食事は二つのテーブルを予約してあった。 今の純平君の気持ちで食事しても美味しくないだろう? 食事が来るまでに解決してやることにした。 「毎日ケーキを買いに来るのはどうして?」 「め、迷惑ですか」 「商品を買ってくれるお客さんを迷惑だって思うお店はいないわよ」 「それなら良かったです」 「ただね……」 お小遣い持たないでしょ。他に買いたいものあってあるだろうし。それにもしケーキ以外に目的があるのならちゃんと伝えないと状況は変わらないよ? 時間もお金も有限なの。だから今日こうして席を設けたと説明した。 あとは、純平の気持ち次第。 ひたすら純平の言葉を待っていた。 「……僕みたいな子供じゃつり合い取れないですよね?」 「それは吉生達を見てから言ってるの?」 「僕は絢香とは違うから」 「私だって吉生とは違うわよ」 「あ、あの……」 「はい」 さあ、あとは勇気を出すだけだよ。 「……僕と交際していただけませんか?」 「いいよ。ただし一つだけ言っておくことがあるわ」 「なんでしょう」 彼は不安なようだ。 そんな怯えるような目をしている純平を見て行った。 「私は純平君が思ってるほど綺麗な女性じゃない。純平より歳をとってる分それなりに男の経験もある。手ごわいから覚悟してね」 「は、はい」 「じゃあ、食べましょうか?」 「はい!」 それから食事を済ませて店を出る。 あまり深夜に高校生を徘徊させるのも良くない。 素直に帰ることにした。 バスに乗ろうとする純平を引き留める。 「何のためにお泊り道具もってきたの?」 「へ?」 しょうがないなあ。 純平に家に電話をかけてもらって私が替わる。 そして純平の両親に挨拶と事情を説明する。 驚いてはいたようだが理解はもらえた。 電話を済ませるとスマホを純平に返す。 「こっちよ。ついてきなさい」 私の借りてるマンションまで歩いて10分程度。 その間に連絡先を交換したりする。 部屋に着くと先にシャワーを浴びるように言う。 その間に私は部屋着に着替える。 純平と入れ替わりにシャワーを浴びる。 時間は23時だ。 純平たちは明日学校がある。 ここからなら徒歩で十分行けるだろう。 ただ早めに寝ようと誘ってみた。 「ぼ、僕どこで寝たらいいですか?」 ああ、まだ子供だったわね。 じゃ、とりあえず大人の階段上ってもらおうかしら。 「寝る場所なんて一つしかないでしょ?」 私は一人暮らし、ベッドが二つもあるわけがない。 警戒しながら布団に入ってくると純平に抱き着く。 「や、矢澤さん」 「杏でいいよ」 「杏。ごめん、僕アレ持ってなくて……」 年頃の男子並みの知識はあるんだ。 でも、まだ大人を馬鹿にしてるでしょ? 私は構わず純平の服を脱がしていく。 そして大きさを確認するとバッグからアレを取りだす。 「なんで杏がもってるの!?」 「手ごわいから覚悟してって言ったでしょ?中には付けなくてしようとする不届きものもいるから」 女性でも必須アイテムなんだよ? 翌朝いつも通りに目を覚ますとベッドを出て下着をつける。 目のやり場に困ってる純平がおかしかった。 「今更はずかしがらないの!」 純平に朝食を食べさせると純平は支度をして荷物を持って部屋を出る。 「今度からは店に通うんじゃなくて家に通ってね。ケーキ買い過ぎてデート資金がないなんて情けない真似ゆるさないから」 「うん」 見送った後ゆっくりしてから吉生と昼食を食べに行く。 「どうだった?」 吉生が聞いてきた。 昨夜の事を説明する。 吉生は笑いながら聞いてた。 「少しは手加減してやれよ」 「私はいつも全力だから」 だからお願い聞かせて。 私はここにいるから。 芽生えたその感情を隠さないで。 惹かれあう音色に理由なんていらない。 いつからだろう? どうしてだろう? 呼吸するようにあなたを求める。 壊れた心が疼きだし叫び声を上げる。 溢れすぎたノイズはいつも真実を遠ざけ嘲笑う。 偽りの安らぎを守る為に孤独を選んだりしないで。 1人では知ることのない手の温もりを感じたいから。 あなただけに捧ぐ命の旋律。 あとどれくらい明日を数えて涙をからせば私は私でいられるの? 言葉より確かな愛で迷いを打ち砕いて欲しい。 束ねた気持ちに嘘はつきたくないから。 君に触れたくてこんなにも震える。 もう閉じ込めたくない。 どんな時でも響き合いたい。 あなたと二人なら何も怖くはない。 捻れた時間さえも奇跡に変えてみせよう。 その笑顔だけは決して離さない。 つながる鼓動をを信じてまだ見ぬ世界へと行こう。 寂しさは優しさに変わるから。 君だけに捧ぐ命の旋律。 この胸の希望に終わりはない。
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