自覚

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自覚

(1) 「空、朝だよ」 「翼おはよう」 翼は僕が起きたのを確認すると「じゃ、ダイニングで待ってる」と言って部屋を出ていく。 天音は朝食の準備。 僕も着替えるとダイニングに向かう。 7人でご飯を食べる。 母さんはあまり食欲がないらしい。 あとすっぱいものを好むようになった。 そういうものなんだそうだ。 朝食を食べると準備をする。 学校に持っていく物は昨夜のうちに準備する。 母さんからの言いつけだった。 翼と天音が降りて来る頃水奈が来る。 靴を履いて、家を出ようとすると翼が立ち止まっていた。 何か考えている。 「空、今日は傘持って行った方がいいかもしれない」 翼がそう言う。 翼の勘はよく当たる。 素直に従った。 「行ってきま~す!」 天音が元気に挨拶すると僕達は学校に向かった。 天音と水奈、翼と僕。二組に分かれて歩いていた。 僕と翼は天音たちの後ろをついて歩く。 だから前から気になってたことがある。 「やっぱり二人共様子が変」 翼が伝えてきた。 はたから見ると元気にはしゃいでいるのだが、どことなくぎこちなく感じる。 母さんの一言からずっと様子がおかしい。 天音は家事を率先するし。 勉強?天音は授業中寝ててもちゃんと話を理解しているよ。 「天音!!今のところ説明してみなさい!」 水島先生に言われると立ち上がって黒板に書かれているのを消して修正する。 「桜子説明間違ってない?言ってることが辻褄合わなかったよ」 と指摘するほどだ。 だから水島先生もうかつに天音に声をかけられない。 それはおいておいて、とにかく様子がおかしい。 水島先生が母さんと水奈の母さんを気づかってるのかもしれないけど、呼び出されることも滅多にないらしい。 余程母さんの一言が応えたのだろうか? 学校に着くと昇降口で天音と水奈とわかれる。 教室に入ると僕と翼はそれぞれの席につく。 「オッス空」 光太たちがやってくる。 「昼休みちょっといいか?」 何かあるんだろうか? 別に何か悪だくみをしてるわけではないらしい。 「別にいいけど?」 「よしっ!じゃあ給食食いながら話すよ」 光太が張り切ってる。 何か面白い事思いついたのだろうか? 昼休みになると給食を受け取って席につく。 あれ? いつもなら光太と学と酒井君だけなのに女子がいる。 翼と美希さんと麗華さんだ。 他にも水島さんや中島君もいる。 「じゃ、話の本題に入ろうか?」 翼と僕は食べることに集中しながら聞いてた。 「俺達ってさ、親は皆知り合いだったそうじゃん?」 「そうらしいな」 学が答えた。 「けどそれがどうかしたの?」 「皆グループチャットでわいわいやってたそうじゃん?」 「今でも一部ではやってるそうだが」 「俺達もやらないか?」 光太はそう言った。 「それやる意味あるの?」 僕の率直な意見だった。 「僕もちょっと理解に苦しみますね。何のメリットがあるんです?」 「世代を超えて仲間を増やすんだよ。面白そうじゃね?」 光太が言う。 その時翼から伝言が伝わってきた。 「乗ってみよう?何か企んでるみたい」 翼の顔を見るとにこりと笑ってうなずいていた。 「僕は良いよ、反対する意見もないし」 「私も構わないよ」 僕と翼は賛成した。 すると他の人もやはり特に反対する理由もないので賛成した。 光太は満足していた。 「じゃ、まず決めないといけないのはグループ名だな」 光太が言うと皆考え込む。 「sacred heart(セイクリッドハート)」 翼が言った。 「聖なる心?」 美希さんが言うと翼は頷いた。 光太はそれが気に入ったらしい。 早速グループを作る。 そして次々に招待していった。 「メンバーはこれだけ?」 美希さんが聞く。 「いや、どんどん増やしていこう。学校を支配できるくらいに」 無茶言ってるぞ光太。 「じゃあ、天音達も入れるね」 翼は乗り気だ。 天音を入れると「じゃあ、俺もと」次々に招待をかけだすメンバー。 1年生まで巻き込んだようだ。 「で、具体的には何するつもりだい?」 酒井君が聞いた。 「わかんね」 光太はあっさりと答えた。 「呆れた……」 翼が言う。 「ただ皆でわいわいやりたいなってだけだから。特に何もしなくていいんじゃないかと」 それって集まる意味があるのか?光太。 「まあ、何か決まったら連絡するよ。じゃ、皆よろしく」 光太はそう言った。 「まあ、いいけどね」 麗華さんはどうでもよさげだ。 「き、桐谷君、よかったら個人IDでやりとりしてもいいかな?」 美希さんが言った。 「別に構わんが……?」 学が返す。 翼は笑顔だ。 学も何か感づいたようだ。 「空は鈍いね」 翼の伝言。 「どういうこと?」 「美希は学が好きなんだよ」 へ? 翼の伝言を受け取って美希さんを見ると確かにそんな気がしないでもない。 「しかし突然どうしたんだ?」 「ほ、ほら。個人的な相談とかもあるし……」 「個人的な相談?」 「うん……」 「まあ、別に構わないんが?」 学は承諾したらしい。 学は美希と連絡先を交換する。 そうしていると昼休みが終わった。 僕達は席に戻ると午後の授業を受けて、家に帰る。 昇降口で天音たちをまっていると女の子が1人悩んでいる。 あれは2年生だっけ? 「どうしたの?」 声をかけてみた。 「傘が無くなってて」 外は大雨だった。 翼の予感は本当によく当たる。 「心当たりはないの?」 翼が聞いていた。 心当たりのある場所は探したけどなかったらしい。 「じゃあ、これ使いなよ。明日帰してくれたらいいから」 翼は自分の傘を女子に貸した。 「でもお姉さんは?」 女子が聞いてきた。 「私は空と帰るから大丈夫」 そう言う魂胆か。 「ありがとう」 そう言って女の子が翼から傘を借りようとしたとき。 「紫。どうかしたのか?」 男の子がやってきた。 「あ、秀史君。傘が無くなってて」 「なんだそういうことかよ。それならいいよ。その傘返しな」 「え?」 「家近いから一緒に帰ろう」 「……うん」 紫という名前の女子は翼に傘を返す。 「どうもありがとうございます」 男子はそう言って二人で帰っていった。 「翼!お待たせ!」 天音たちが来た。 「じゃあみんなまた明日な!」 天音がそう言うと、天音と水奈を連れて帰った。 「ところでさ、昼間のあれなんなの?せいくりっどはーとだっけ?」 天音が聞くと翼が説明する。 「じゃあ、誰でも呼んでいいんだな」 「分かった!」 早速水奈を招待する。 家に帰って部屋で勉強をしていると翼が入ってきた。 「天音は?」 「部屋でスマホ弄ってる。邪魔かと思ってこっちに来た」 翼はそう言ってベッドに腰掛ける。 「上手くいったみたいだよ?美希と学」 「へ?」 「メッセージで美希から聞いた」 「そうなんだ。あのさ……」 「なに?」 「ひょっとしてそれが狙いだった?」 「光太はそうだったみたいだね」 翼はそう言って笑う。 宿題が終ると二人でテレビを見ていた。 天音は一人にしておいた方が良いらしい。 「ご飯できたわよ」 父さん達も帰って来たみたいだ。 お婆さんがよんでる。 僕達はダイニングに行く。 夕食の話題にSHの事について話した。 父さんと母さんは興味を持ったみたいだ。 「父さん達も学生時代同じようなグループ作ってたよ」 渡辺班というグループ。 関わった者は必ず幸せが訪れるという不思議なグループ。 今でも年に一度集まってパーティをしているらしい。 「でも今年は欠席だな」 「どうして?」 「愛莉の出産予定日と重なるから」 なるほどね。 夕食の後3人で風呂に入る。 「ねえ、翼」 「天音どうしたの?」 「もしもさ、SHにも父さん達の作った渡辺班と同じような効能があるとしたらさ」 「したら?」 「水奈にも彼氏できるのかな?」 「……かもね」 さすがにそこまでは翼でもわからなかったらしい。 「あんたは人の心配してないでまだ決めてないの?」 「その言葉を待ってたんだ!」 天音が言う。 週末に映画を観に行きたいんだけど3人と言うのは気まずいらしい。 そしたら美希にも彼氏が出来たらしい。 ついでに翼と僕と水奈も誘って8人で行くのはどうかと言う話になったらしい。 「私は別にいいけど空は?」 「断る理由はないよ?」 「じゃ、決まりだな!」 週末か。なんかいい映画やってたっけ? あれ? ああ、そう言う事か。 「天音の心配してたのって。水奈の事?」 僕が天音に聞いていた。 「そ、あいつ1人ぼっちになっちまうから可哀そうだなと思ってさ」 「誰か良い人いないの?」 翼が聞いてる。 「同級生には興味がない。上級生もあと知ってるのは光太くらいしかいない」 光太は麗華さんが気になってるみたいだったし困ったな。 まあ、何とかなるだろ。 本当に何とかなっていたとは思ってもみなかった。 (2) 「最近さ、天音も水奈も大人しくないか?」 「お前もそう思ったか?遊」 なんか、最近ノリが悪い。 いたずらと言ったらチョークにセロハンテープを巻き付けて黒板にかけないようにしたり、教卓に細工を仕掛けて桜子が教卓に振れたら崩れるようにしたり、階段を上がってくる桜子に給食であまった牛乳パックを投下したリだ。 どうも面白みに欠ける。 あの二人に何があった? 母親が病院行ってるからって言ってサボった日からだ。 なずなも花も可愛いけど、ただそれだけ。 やっぱりあの二人に惹かれる。 「お前どっちが好み?」 遊は水奈派らしい。俺は天音派だったが大地と争奪戦を繰り広げている。 まあ、お互い何も行動できずにいるんだけど。 大地と天音じゃ釣り合い取れないだろと思ったけど、最近の天音は何を考えているかわからない。 まさか大地が狙っていたとは……。 迂闊だった、油断してた。 2人で考えていても仕方がない。 しかし二人の変化には関係なさそうだ。 昼休み、天音たちに聞いてみた。 解答は2人そろって一緒だった。 自分たちに弟か妹ができるから、無意識に自覚して自重してる。 花となずなも驚いていた。 「いつ頃生まれる予定なの?」 花が聞く。 「クリスマスくらいだって言ってた」 「あ、うちも同じ」 天音と水奈が答える。 「別に関係なくね?俺も遊も妹居るけど性格全然違うぜ?」 恋も瑞穂もそろって大人しい。 「そう言われたらそうだな」 天音が言う。 「でもさ、今大事な時期みたいだしあんまし学校に呼び出されるような真似はしたくないんだよな」 水奈が言う。 そう言うのは女子しか分かんないだろうから多分そうなんだろう。 「あの、天音。ちょっといいかな?」 大地が話に加わってきた。 「別にいいよ。どうしたの?」 「今週末に始まる映画が面白そうで気になっててさ一緒にどうかなと思うんだけど……」 「そう言う話なら大歓迎だ。てか、もっと堂々とはっきり言え!」 天音のテンションが上がる。俺はテンション下がる。 「でも、まだ二人でってのがどうしても抵抗があって……」 「じゃあ、俺も行くよ!」 俺が名乗りを上げた。 この2人だけにさせたら駄目だ。 そうでなくても最近天音は大地に傾きつつある。 「翼さんと空君もどうだろうって思って」 この際だから水奈もどう?と大地は言った。 デートでも何でもない気がするのは気のせいか? 「……まあ、私も正直二人っきりだとどうしていいか分からないしな。いいよ。今夜翼に相談してみる」 「ごめんね……」 「気にするな、要するに皆で遊ぼうって事だろ?」 すると水奈を除く全員のスマホが鳴った。 皆スマホを見る。 メッセージグループの招待だ。 姉の麗華からだった。 セイクリッドハート? 取りあえず入ると恋や瑞穂も入っている。 なんだこれ? 「瑞穂?どうした?」 瑞穂は泣いていて答えない。代わりに茉里奈から聞いてみた。 傘を隠された。 どうせ大原兄弟や優の仕業だろう。 「兄ちゃんに任せとけ!」 3年生2人くらい一人で十分しめれる。 「粋助太刀するぜ!」 遊も加わるようだ。 久しぶりに暴れてやるか。 そう思って上履きに履き替えた時、学が大原兄弟の襟を掴んでやってきた。 「お前たちどうした?」 学が言う。 どうやら大原兄弟の仕業らしい。 学に先を越された。 ベランダから傘を投げ捨てようとしてるのを見つけたらしい。 「ほら、傘を出せ!」 学が言うと大原兄弟は傘をだした。 瑞穂はそれを受け取る。 「有難う」 瑞穂は泣き止み笑顔で言った。 「それじゃ、帰ろうか」 学が言う。 瑞穂を連れて帰る。 「お帰り、遅かったね」 母さんは夕食の準備をしていた。 雨降ってるから外で遊ぶのは無いな。 部屋で大人しくゲームしてた。 夕食が出来るとそれを食べて風呂に入って自分の部屋に戻る。 やる事が無いのでひたすらゲームをして眠くなったら寝る。 雨の日は憂鬱だ。 やる事無いし。 梅雨の時期は無駄な時間を過ごしている気分になる。 早く夏にならないかな。 夏になれば何かが変わる。 そんな予感がしてた。 (3) くそっ!桜子の奴! こっちが大人しくしてればいい気になりやがって。 退屈だったし窓が開いていたので紙飛行機飛ばして遊んでたら、風が吹いて桜子の頭に命中してその罰に全員の宿題を職員室に運べと言いやがった。 天音は最近やる事無いとひたすら寝てる。 天音は寝てても授業を聞いてるようなので騒がれるよりはましだと桜子も放置してる。 にしても重たいな、これ。 階段を上るのも一苦労だっての。 積み重なった宿題の山で前が見えなくて誰かにぶつかった。 「どこ見てんだよ!?こっちが前見えない事くらい分かるだろ!気を付けやがれ!」 機嫌が悪かった私は相手が上級生か下級生かも関係なしに怒鳴りつけていた。 「ああ、ごめんごめん。悪かったね」 ぶつかった相手を私は知っていた。 片桐空。天音の兄。 こんな偶然ってあるんだな。 あの時以来あまり話してなかったな。 空は散らばった宿題を拾い集めている。 いつも一緒に登下校してるくらいなのになぜか私はそんな空をボーっと見ていた。 空から目が離せなかった。 「この量は水奈には多すぎるね。手伝うよ」 そう言って荷物の半分以上を持つ空。 空が誰にでも優しいのは知っていた。 だから天音や翼が不安になるのを空は気づいているのだろうか? 「どこに運べばいい?」 「……教室まで」 「じゃ、行こうか?」 そう言って教室まで運んでくれた。 「じゃ、天音によろしく」 そう言って頭をぽんと叩くと自分の教室に戻っていく。 「あの!」 私が叫ぶと学は振り返る。 「助かった。ありがとう」 「いいよ、じゃあね」 その時の笑顔が未だに頭から離れない。 雨が降った帰り道、天音たちと帰っていた。 天音の話に適当に相槌を打ってた。 空の顔をまともに見る事が出来ない。 私どうしたんだろう? 家に帰ると母さんが横になってる。 「母さん大丈夫か?」 「あ、おかえり。もうそんな時間か?夕食適当でいいか?」 「無理すんなよ、私自分で作れるから」 「大丈夫だ。そんな時間あったら勉強してろ」 今日はなぜか大人しく机に向かっていた。 しかし教科書に書いてる文字など上の空だった。 ただ、空の事を考えていた。 それは夕食の時間も風呂に入ってる間もだった。 風呂から自分の部屋に戻るとメッセージが来てた。 メッセージグループの招待だ。 セイクリッドハート? 招待したのは天音だった。 仲には遊や粋もいた。 「どういうグループだ?」 私が聞くと、翼が説明する。 それで学年関係なくいるわけか。 翼や天音がいるってことは……。 私は空の名前を見つけると、空に個別チャットを送っていた。 「今日はありがとう」 返事が返ってこない。 私の事など忘れてしまったのだろうか? なぜか寂しい。 暫く待っていてそろそろ寝ようかという時返事が返ってきた。 「ごめんね、翼と話をしていて。気にしなくていいよ。返事遅れてごめんね」 「いや、私も起きていたから」 「そう?ならいいんだけど」 今日の私はどうかしてた。 だけどこの感情は間違いない。 でも空には翼がいる。 その事が私を臆病にさせる。 なんて返せばいいんだろう? いっそのこと玉砕してすっきりするか? だけど、恋と言うのは人を臆病にさせるみたいだ。 そうか、私は空に恋をした。 それは空には翼がいるからという理由ではせき止められないほど強い願い。 しかし天音の兄でもある。 しくじったら天音とも気まずくなるんじゃないのか? そう思ったら私から切り出すなんてできなかった。 「じゃあ、そろそろ寝るね。おやすみ」 空はそう言て寝てしまった。 私はベッドにダイブした。 さっき思ったことは忘れてしまえ! そう思ったけど忘れる事は許されなかった。 瞼を閉じれば空の顔が浮かんでくる。 その日はあまり眠れなかった。 私は恋をした。 あまりにも無謀な恋に立ち向かう勇敢な恋の歌。 長く始まる恋物語の序章でしかなかった。 (4) ずっと空君を好きでいると思ってた。 でも女心というものは変わりやすいもので。 私を庇ってくれた彼に気が付いたら恋に落ちてた。 彼の事が知りたくて亀梨君に相談したらいいアイデアがあるという。 取りあえずみんなと仲良くなろう。そういう雰囲気を作り出そう。 それはSHを作った真相。 最初はめんどくさそうだったけど皆承諾してくれた。 それだけじゃダメだ。 一度決めたんだ。二度目も三度目も同じだ!! 私は彼に直接言った。 「き、桐谷君、よかったら個人IDでやりとりしてもいいかな?」 私なりに思い切って言ってみた。 「別に構わんが……?」 そして桐谷君と連絡先を交換した。 家に帰って、部屋に戻ると彼にメッセージを送る。 「一目惚れしました。付き合ってください」 暫くして返事が来た。 「俺は弟たちの面倒を見るので精一杯で石原さんに構ってやれない。それでも構わないなら」 「それでもいい!付き合ってください」 「……わかった。よろしくな」 嬉しかった。 気分は浮かれていた。 夕食に呼ばれて、夕食を食べて風呂に入って部屋に戻ろうとすると母さんに呼びとめられた。 父さんもいる。 だけど「望、ちょっと席を外してちょうだい。娘と話がしたいの」と言った。 父さんは寝室に行った。 それを確認すると母さんは言った。 「あなた今日何かあったでしょ?様子が変よ?」 母さんはこういう時鋭い。 下手に隠そうとしても無駄だ。 正直に打ち明けた。 浮気性の軽い女と思われただろうか? どちらでもなかったようだ。 「桐谷君って瑛大の息子さん?」 母さんの知り合いの様だ。 大学の時の同期の仲間だという。 「なるほどね。よかったじゃない。おめでとう」 母さんはそう言って喜んでくれた。 その後部屋にもどると桐谷君とメッセージを交わしていた。 すると桐谷君から電話がかかってきた。 「時間が取れたからこっちの方が早いと思ってな」 「ごめんね」 「石原さんが謝る事じゃないさ」 「あの……」 「どうした?」 「出来たら下の名前で呼んで欲しい」 「そうだな、俺の事も学でいいよ。兄弟がいるし」 「わかった」 「それで付き合うといっても具体的にどうしたらいいんだ?」 こういう時は徹底的に攻めろ! 母さんが言ってた。 私は考えた。 そして思いついた。 「ちょっと待ってて!」 そう言って弟の大地の部屋に行く。 「大地!あなた週末映画に行くって言ってたわよね!」 「うん、翼さん達にもお願いしてるところ」 「だったらお姉ちゃんも行く!」 「お姉ちゃん、翼さんと空君は……」 「私も彼氏用意するから!」 「いるの!?」 「できたのよ!行くからね!」 そう言って学を映画に誘う。。 「週末に映画を観に行きませんか?」 「わかった。遊も恋ももう昼間くらい一人で平気だろうから」 「じゃあ、今日はこの辺で。明日からよろしくお願いします」 「ああ、こちらこそよろしく」 私は自分の部屋にもどって浮かれていた。 翼と麗華に報告していた。 「おめでとう、よかったね」 2人から返信が来た。 本当に良かった。 一度がだめだったからといって諦めない。 自分の気持ちを信じて何度も繰り返せばいい。 きっと報われるときがくるから。 嬉しくて浮かれて……考えてなかった。 母さんは一体何をしたんだろうと言う事まで考えてなかった。 (5) 参ったな……。 縁のない事だと思っていたけど。 弟たちの世話で忙しくて、自分の時間すらなかったのに。 縁というのは思いがけない所からくるんだな。 父さんと母さんを見てたらその事は理解できる そして考える。 石原美希。成績もよくちょっと大人しくて気が弱いような印象を感じた。 自分から告白してくるような子には見えなかった、 彼女に不満はない。 見た目はいい、頭もいい、大人しい、男性目線からしたら素敵な女性だ。 石原さんの事を良く知らないからいきなり言われても困ると言ってもよかった。 彼女は大人しいのは間違いない。 でも突然告白してくるような子だとは思わなかった。 だけど俺には世話をしなければいけない弟たちがいる。 食事の準備をしながら考えた。 準備が終る頃母さんが帰ってくる。 父さんはとっくに帰って部屋でゲームをしている。 母さんが着替えている間に父さんと遊と恋を呼ぶ。 食事が済むと母さんが片づけはすると言った。 「疲れてるだろうから俺がするよ」 「悪いね……?」 親の直感というのは恐ろしいものだ。 「学?何か悩み事?」 母さんなら言っても構わないか。 美希から告白を受けた事を知らせる。 「美希って恵美の娘さん?」 母さんの高校時代からの友達らしい。 そういうつながりが親の間では広いらしい。 「すごいじゃない。あんた逆玉だよ」 いや、そんな先の事まで考えていないけど。 「母さんも安心したわ。瑛大はあんなんだし、あんたを遊ばせることすら出来てなかったから」 「……母さんは父さんとどうして結婚したんだ?」 「……直感かな?」 そう言って母さんは笑っていた。 高校時代にこいつだ!と決めてアタックしたらしい。 それからいろいろ問題があったけどその甲斐があって今の俺がいる。 「学、一度この人だと思ったら一生守るつもりで大事にしなさい」 まだ小学生の俺にそこまで責任をとらせるつもりなのだろうか? 「しかし一番難しいと思ってた学が初恋かぁ。母さんは応援してるよ」 そう言って部屋でゲームを再開している父さんを叱りに行った。 初恋か。 俺にはまだ自覚できてないけど……。 これからゆっくり知っていけばいいか。 時間だけは沢山あるのだから。
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