遠足

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遠足

(1) 「空!!起きてるか!!」 天音の声がいつもの1.5倍増しで元気に聞こえる。 「起きてる」 「早く準備して来いよ!」 今日は天音は朝から張り切っているのだろう。 理由は何となくわかる。 今日は歓迎遠足の日。 新1年生を歓迎する遠足。 学校近くの河原の公園まで行ってお弁当を食べるだけの行事。 もちろん遊んだりお菓子食べたりするけど。 毎年僕達はある悩みに直面する。 リュックサックに荷物と詰め込んであとは水筒と弁当箱を入れるだけ。 そしてそれを入れる度に母さんに訴える。 「母さん弁当箱が入らない!」 「あなた達はいつも言ってるでしょ!お菓子はかさばらないものにしなさいって」 そう、お菓子が多すぎて弁当箱が入らない。 母さんが中身をチェックしてきっちり整理して詰めてくれる。 天音が張り切る理由は弁当にあった。 こういう時だけ天音が料理をする。 天音の料理は母さんを凌駕する。 将来は調理師にでもなるのだろうか? 僕達はあまり将来について考えたことは無い。 翼も天音も人並みな夢「お嫁さんになりたい」すらない。 僕はなんとなく会社を継ぐのかなくらいしか考えてない。 準備をしていると呼び鈴がなる。 水奈がきたんだろう。 僕達は玄関に行って靴を履いて家を出る。 「行ってきま~す!」 天音の声が響き渡る。 翼は相変わらず何を考えてるのか分からない。 ただ学校に向かって歩く。 翼とは心を共有できるけど、出来ると知ってるからかあまり心を開かない。 たまに開くけどそれは激しく動揺してる時だけどだ。 そしてとんでもない行動に出る。 一方天音は水奈と話をしている。 今度は何を企んでいるのだろう。 去年は男子に賭けを持ちかけてお菓子を片っ端から巻き上げて水島先生に怒られてた。 イカサマをしていたのは言うまでもない。 その前の年は弁当とお菓子を食べて飽きたからと勝手に家に帰って大騒動になっていた。 もちろん両方とも親を呼び出される大事件になっていたが。 今年は何を企む気なのやら。 ちなみに妙に膨れ上がっている天音と水奈の荷物を不審に思った母さんが嫌がる二人のリュックサックの中味をチェックしたらペットボトルロケットと発射台をそれぞれ持っていてそれを押収されていた。 学校に着くと校庭に皆ならんでいる。 水奈たちと別れて自分のクラスの列に並ぶ。 学級委員の桐谷学が点呼を取っている。 学もまた父さん達の知り合いだった。 この学校に父さん達の知り合い何人いるんだろう。 学は真面目で責任感があり明るく社交的な人間だ。 その人柄からずっと学級委員を任せられている。 面倒事を自ら買って出てるところもあるようだけど。 学にも兄弟がいる。 天音のクラスメート遊と恋。 点呼が終ると担任の高槻千歳先生に報告する。 暫くすると教頭が挨拶をする。 偉い人の話は長い上に無駄話が多い。 聞いてて退屈する。 多分じっとしているのが嫌いな天音にとって苦痛だろう。 僕と翼は適当に聞き流してた。 声にしなくても「共鳴」の能力で対話が出来るので退屈はしなかった。 注意事項とかが終ると皆学年順に歩き出す。 でも現地に着く頃には順番は滅茶苦茶になっている。 どさくさに紛れて天音達が僕達の所にやってくるのは毎年の事。 「大人しく自分の学年の所に戻れ!」と怒るのは水島先生だけじゃなく学も同じだった。 そして現地に集まると自由行動。 ここからショッピングモールまで子供の足でも30分あれば辿り着ける。 それを実行したのが天音達。 1年の時に天音たちがやらかして、2年で異例のクラス替えをしたけど全く効果が無かったので今年また問題児を皆水島先生に押し付ける形になった。 4年生には問題児が多い。 天音を筆頭として多田水奈、桐谷遊、栗林粋など。 水奈は天音に付き合ってるというか巻き込まれてるだけな気がするけど。 やることなす事が上級生をも黙らせるほどやりたいほど。 先日も「私の夢はユーチューバーだ!」といってバケツの中に大量に爆竹を投入して導火線を作り校庭で爆発させて親が学校に呼び出されていた。 天音たちの暴動はとどまることを知らない。 だけど、呼び出される母さんたちも全く悪びれる様子がない。 「まあ、子供のやることだから大目に見てあげて」と母さん。 「そりゃ悪かったな。まあ私とお前の仲だ。勘弁してくれ」と多田神奈さん。 水島先生そのうちノイローゼにならないかと心配だ。 去年も1年のうち母さんたちが呼び出されない日数を数えた方が早い気がするんだけど。 天音に関しては成績だけはいいからなおさら質が悪い。 しかし今日のところはまだ何も問題を起こしてない。 母さんがペットボトルロケットを取りあげたからだろう。 計画が水の泡になって不貞腐れていた。 で、自由行動になって僕と光太と学、翼と美希と麗華の6人でお弁当を広げていた。 皆が僕達も弁当を見て驚くのもいつもの事なのだが今年は度肝を抜かされた。 母さんが作ってもそうなのだが基本的にキャラ弁とかそういうノリは全くない。 見た目より量を重視する。 弁当箱は二段になっていて上の段にはおかずがぎっしり詰まっていて下の段にはオムライス。 そこまでは翼と同じだった。 問題はオムライスにあった。 天音は僕の弁当にだけケチャップで天音のAと空のSを書いてその間にハートマークを入れてくれた。 もちろん翼は怒り出す。 翼は無言で弁当をさっさと食べ終えると天音を捜しに行った。 学は自分で弁当を作ってるらしい。お母さん・桐谷亜依さんは看護師で家事をしてる暇がない。 鍵っ子ってやつだ。 だから学は兄妹の分どころか両親の分まで家事をこなしながら勉強をしている。 妹の恋を楽しませてやりたいと可愛らしい弁当を作ってる。 自分の分くらい変えたらいいのに。 そんな事を考えていると。美希が話しかけてきた。 「今日お弁当自分で作ったんだ」 「そうなんだ。すごいね」 「ちょっと味見してもらえないかな?」 「別にいいけど?」 「じゃ、お口開けて」 どういう意図があるの変わらないけど食べ物に罪はないって父さんが言ってた。その後にも何か言ってた気がするけど。 言われた通り口を開ける。 美希さんが口の中にから揚げを入れようとしたとき……。 「空!何やってるの?」 戻って来た翼の声で美希が僕から離れた。 「から揚げ試食しようとしてただけだよ」 「ただ試食するだけなら自分で食べたらいいじゃない」 「そ、そうだね空君。どうぞ」 美希がそう言って僕の掌にから揚げを乗せる。 僕はそれを食べる。 「どうかな?」 「美味しいよ。料理得意なんだ?」 「母さんから習ったから」 そんな美希さんとのやり取りを険しい表情で見てる翼。 「どうして最初からそうしなかったの?美希も空はまだそういう感情持ってないって聞いたでしょ」 「ほ、ほら。今日は天気もいいから気分が高揚しちゃって。……ごめんなさい」 美希が謝ってる。 「食べ物には罪はないって父さん言ってたろ?」 僕が弁護してやったつもりだった。 「空……その後母さんが言ってたこと忘れたの?『食べ物に罪はなくても食べる人に罪があります!」って」 あ、そうだった。 「でさ、天音は見つかったの?」 話題を変えてみた。 翼は座ってお菓子を取り出して食べながら言った。 「4年生の群れの中にいなかった。また何か企んでるみたい」 またか……。 その時3年生の群れで何やら騒いでる。 なんだろう? 僕と翼は顔を見合わせる。 今年も問題を起こすのか。 そんな顔で互いの顔を見てため息をついていた。 そして嫌な予感ほど当たるものだった。 (2) 「ご、ごめんなさい。本当にこれしかないんです」 「嘘つけ!これっぽっちのお菓子しか持ってきてないわけわけないだろ!」 私と栗林瑞穂は同級生の大原奏に絡まれていた。 他の人達にもお菓子を取られてほとんど残ってない。 瑞穂ちゃんは自分のお菓子を全部取られて泣き出してる。 「ほ、本当に無いんです」 「じゃあ、ちょっとリュックサック見せて見ろよ!」 そう言って大原君が私のリュックを奪おうとした時だった。 バシュッ! 男子たちにコーラが降り注ぐ。 「だ、誰だ!?」 大原君が振り返ると女子2人がコーラのペットボトルを持って立っていた。 「それで十分だろ!とっとと失せやがれクソガキども!」 赤毛の子がそう言い放つ。 「ったく、どうして遠足ってなるとこう他人のお菓子にまでたかる乞食が増えるんだ。そんなに腹減ったなら雑草でも食ってろ!」 赤毛の子が言うと男子たちは怒り出した。 「こんな真似してただで済むとおもってるんじゃないだろうな?女子だから手加減してもらえるとか思うなよ」 大原君がそう言って二人に近づく。 「よく言った後になって『女子だから手加減した』なんて言い訳聞かないからな。水奈、先生が来ないように見張ってろ。こんなガキども私一人で十分だ」 赤毛の子が言う。 「やり過ぎるないでね。それと先生が気づかないうちに片づけて」 サイドポニーの子が言う。 「なめてんじゃねーぞこのガキ!」 大原君が掴みかかる。 「ガキはてめーらだろうが!!」 赤毛の子の拳が大原君の頬をえぐるようにとらえる。 大原君は吹き飛ばされた。 多分本気で殴り飛ばされたのは人生初だろう。 しかも女子に。 しかし赤毛の子の怒りは止まらない。 倒れた大原君を徹底的に蹴りつける。 「お前らがかつあげなんてダサい真似してるからこっちのお遊びが台無しじゃねーか!ただでさえ愛莉にロケット没収されてつまんねー遠足になったってのに」 「せっかくこっそりコーラ買って来たのに台無しじゃない。弁償して」 男子が女子にボコボコにされている図を見て瑞穂も泣き止み、ただその光景を眺めていた。 「お前たち何事だ!?またお前らか!?片桐と多田!!」 「ほら見ろ先生にまでばれたじゃねーか!責任とれよ!」 「だから先生に気付かれる前にやれって言ったのに」 先生たちが来て逃げ出すどころからさらにエスカレートする赤毛の子……片桐って呼ばれてた。 サイドポニーの子・多田さんはそんな様子をただ見ていた。 この二人に怖いものが無いのだろうか? 教師4人がかりで必死に取り押さえられるまで片桐さんの暴行は続いた。 大原君は泣きわめいている。 「あれ?瑞穂じゃん?何があったんだ?」 瑞穂のお兄さん・栗林粋が来た。 「茉里菜じゃん。どうしたんだ?お前らまさか天音たちに何かしたのか?」 私の姉、渡辺紗理奈が来た。 私は姉に事情を説明すると、姉は先生にそれを伝える。 二人は私達を助けに来てくれたのだと説明する。 しかし事情を考慮しても体中があざだらけになり服はボロボロ。口から血を垂らし鼻血を流して顔は腫れている大原君の事実は変わらなかった。 二人はその場で正座をさせられ説教を受ける。 もちろん二人が黙ってきているはずがない。 「瑞穂と粋?何があったの?」 「天音!今度はなにしたの!?」 5年生の片桐翼と空と桐谷学、それに瑞穂のお姉さん栗林麗華が来た。 学が事情を聞いて必死に弁護する。 事は何とか収まった。 (3) 「ああムカつく!最悪の遠足だぜ!」 天音が言う。 天音はまだいい、母親が母親だけにまだ救いはある。 私達は帰り道桜子にしっかり見張られて帰った。 帰りにまた復讐しようとか考えないように。 天音がそんな事するわけない やるんだったら来週校門で待ち伏せして袋叩きだ。 ただ疲れただけの遠足。 これなら学校で授業受けてた方がまだましだ。 寝てればいいんだから。 「水奈、どうしたんだ?急に黙って」 天音が聞いてきた。 「家に帰った後の事を考えると気が重くて……」 「確かにな……」 「まあ、そうカリカリすんなって」 栗林粋が来た。 「瑞穂が感謝してた。ありがとうって」 「……二人は結局どうしたんだ?」 「空君がお菓子分けてくれてなんとか楽しい思い出になりそうだよ」 小学生低学年だからって甘く見てないか? 幼稚園時代だって恋をするんだぞ? これ以上私のライバルを増やさないでくれ。 天音と翼の二人という難関を突破するだけでも難しそうなのに。 学校に帰ると解散する。 私は天音と翼と空の4人で家に帰る。 「憂さ晴らしにボーリングでも行こうぜ!」 天音の案は翼と空に却下された。 天音の家の前で別れると私は一人で家に帰る。 ドアを開けて部屋に入ろうとすると母さんに呼ばれた。 ああ、やっぱり説教か。 リビングに行くと母さんがいる。 「ちょっとそこに座れ」 絨毯の上に正座する。 「そうじゃない。ちゃんとソファーに座れ」 珍しいな。説教じゃないのか?もう連絡はいってるはずだけど。 私がソファーに座ると母さんも向き合うように座る。 「用件は私が言わなくても分るよな?」 「……はい」 「事情も聴いた。また天音とやらかしたみたいだな」 「よくやった……と、言いたところだがやり過ぎだ馬鹿。少しは手加減てものを考えろ!」 やっぱりそうなるよな。 私は見てただけなんだけどな。 いつも私は天音に巻き込まれてる。 「今回は美嘉と美里からもお礼の電話が来たし大目に見てやる。けどせめて先生が来た時くらい大人しくしてろ」 「はい」 「話は以上だ。弁当箱とか出しとけよ」 「うん」 弁当箱と水筒をダイニングのテーブルに置いて部屋に戻った。 (4) 「天音!ちょっと来なさい!」 帰ったらすぐ愛莉に呼び出された。 翼と空は部屋に行く。 愛莉は叱るってことはしない。 まず私の言い分を聞く。 それから私の至らなかった点を指摘する。 今回もそうだった。 けれど今回は私も虫の居所が悪かった。 体調のせいもあるけど。 「先生から話聞いたんだろ?それ以上言うことねーよ!」 愛莉に怒鳴りつけてた。 後悔ってあとからするもんだな。 これじゃ、ただのグレた不良少女じゃないか。 愛莉泣き出すかな? 「確かに先生から話は聞きました。でもそれだけでいいの?私の判断材料は先生の主張だけでいいの?」 愛莉は優しく言う。 「違うでしょ、天音なりに思う事があったからやったんでしょ?その意志を母さんは尊重します」 愛莉のいつもの方法だった。 私は自分の主張を説明した。 愛莉はそれを静かに最後まで聞いてた。 途中で反論する事なんて一切しない。 そして私が説明を終えると愛莉はにこりと笑う。 「天音の主張は分かりました」 ここから愛莉の説教がはじまる。そう思ってた。 だけど愛莉はスマホを取り出すと電話をする。 「もしもし神奈?私だけど今から水奈さん連れて那奈瀬川の公園にこれない?」 愛莉は用件だけを言うと電話を切った。 そして朝没収したペットボトルロケットを手に私についてくるように言った。 公園に着くと水奈と水奈の母さんがいた。 愛莉はペットボトルロケットを芝生の上に置くと私に聞く。 「これどうやって飛ばすの?」 飛ばせって事か? 水奈と顔を見合わせるとロケットをセットして飛ばす。 空高く舞い上がるロケットを見てた。 「すごいですね。あなた達が作ったの?」 愛莉はそういう。 そしてこう続けた。 「少しは気が晴れた?」 私は自分が今笑顔だという事に気が付いた。 そしてうなずく。 「天音の意見は正しいと思います。天音は間違ってはいない。ただ一つ間違っているところがあるとしたら3年生に『八つ当たり』したことです」 愛莉はそう言った。 愛莉はいつもそうだ。 私の気持ちを読み取って指摘する。 「これで気分は晴れたでしょ。あとは問題の八つ当たりした件を謝りに行きましょう?また天音の中で鬱憤になってしまうから」 愛莉はそういう。 そして大原の家に水奈と一緒に謝りに行った。 大原の親も類にもれず愛莉の後輩らしい。 向こうから頭を下げた。 年上とはいえ女子に手を出そうとした息子に否があると言った。 お菓子の件も謝罪した。 それは私達じゃなくて栗林さんと渡辺さんにお詫びするように愛莉が言う。 そして車に乗る。 「これですっきりしたでしょ?帰って食事にしましょう」 「うん……」 あ! 「愛莉!すぐ家に戻って!」 「どうしたの?」 「忘れてた!」 「何を?」 愛莉は分かってない様だ。 現状で空と翼を二人きりにすることの危険性に。 「まあ、ちょっといけない遊びはするかもしれないけど、空は冬夜さんと一緒だから問題ありませんよ」 翼の強引さは愛莉譲りだろ! (5) 「……わかった?」 「……全然」 「……人に教えるってどうも苦手」 そう言って翼は僕のベッドに仰向けになる。 突然部屋に来た。 「する事無いから勉強教えてあげる」 で、教えてもらったんだけど全然言っている意味が分からない。 理屈が高度過ぎて分からないとかじゃない。 不思議なんだ。 「そんなの数式みたらわかるじゃん」 母さんも同じ事言ってたっけ。 まあ、翼に聞かなくても大体の事は教科書見たら「理解」できるからいいんだけど。 宿題を終えると背を伸ばす。 「宿題終わった?」 翼が聞いてきた。 「終わったよ」 「じゃあこっち来てよ」 翼が手招きする。 そして翼の横に寝るように言う。 言われたとおりに横になった。 「私、人にものを教えるの苦手だけど一つだけ空に教えられるものがあると思うんだよね」 「僕に?」 「うん、それは言葉にしなくても伝えられるから。理屈を並べて教えるものでも無いから。私にもできる」 「それは何?」 僕が聞くと翼は僕に抱き着く。 そして二度目のキスを交わす。 その後翼は自分の胸を僕の胸に押し当てる、 僅かだが膨らんでるようだ。 見た目分からないほどだけど実際に当てられると僅かに柔らかい感触がある。 「私ドキドキしてるでしょ?」 翼が言った。 「うん」 「空もドキドキしてるよ?」 この状況下でドキドキしない男子の方が少ないと思うんだけど。 翼はさらに続ける。 「もっとドキドキしてみたくない?」 これ以上ドキドキしたら心臓破裂しそうなんだけど。 本能というものは時として自分の意識と真逆の方に向かう物なのか? 僕は黙ってうなずいていた。 翼は僕の上に跨ると上に羽織っていたもののボタンを外しだす。 母さんと天音は出かけたようだ。 今家には祖母しかいない。 祖母は滅多に上に上がってこない。 しかしこのまま翼のやりたいようにさせていいのか? しかし本能はこのままでいいと訴える。 翼が上半身裸になってスカートをめくったその時だった。 ガチャッ 母さんたちが帰って来たらしい。 ドタドタと階段を上る音が聞こえてくる。 翼も聞いていたらしい、慌てて服を着る。 「翼!!何やってんだ!?」 天音がドアを開けると共に叫んだ。 天音から見えたのはベッドに仰向けになっている僕とその上に跨る翼。 「何って空に教えてあげようとしてただけよ?」 「何を!?」 「空は言った。好きって感情が理解できないって。だからそれを説明してあげようと思って」 「それと翼が空に跨ってるのとどう関係があるんだ!?」 「理屈より実践した方が早いでしょ?知ってるでしょ?私空と『共鳴』できるって」 ってことは、さっきのドキドキが「好き」って事? 翼はそんな僕を見てくすりと笑うと僕を解放した。 「一体何の騒ぎ?」 母さんが上がって来た。 「愛莉聞いてくれ!翼が空を襲ってた」 「あら、まだちょっと早いんじゃない?翼」 母さんが言う。 「そうかもね、でも十分効果はあったみたいだからいいよ」 そう言って翼は自分の部屋に戻る。 そんな翼の後を追う天音。 母さんは僕に近づくとこつんと小突く。 「男の子がだらしないですよ。空」 そう言って母さんも部屋を出ていった。 別段いまさら翼の裸を見たからってどうってことない。 毎日風呂で見てるんだから。 でも不思議な感じだった。 その感覚は翼にも会った。 翼とだけ感覚を共有できてた。 これが恋なのか? その答えを誰が教えてくれるのか? 父さんに聞くわけにもいかない。 夕食の時間まで自問自答していた。
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