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「っん」
性急に重ねられた唇。息の仕方が分からなくて、止めているとくらくらし始めて。それを見た浅葱さんは唇を離して笑った。
「かなめさん、可愛い」
「あ、浅葱さん!!」
「そういうところも全部、大好きです」
「~っ!!」
浅葱さんによってからかわれた私は、顔の熱が引くまで彼の胸元に顔をうずめてやり過ごした。その間も浅葱さんはクスクスと笑いながらも私の背を撫で続けてくれた。
「さて、遅いですからお部屋までお送りしましょう。明日から、また通学ですし」
「はい、すみませんでした。こんな遅い時間に」
「いえいえ、俺としては返事が聞けてとても嬉しいです。あ、明日からは学内でもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
頭を下げて明日からのこともお願いする。明日からは浅葱さんが構内に入って護衛をしてくれる。授業はさすがに一緒じゃないけど、ちょっとした学友気分を味わえるとあって楽しみだ。お仕事である浅葱さんには言えないけど。
「おやすみなさい、かなめさん」
「おやすみなさい、浅葱さん」
名残惜しい気持ちを押さえて、浅葱さんと別れる。部屋でまた一人になるとさっきのキスを思い出してしまって、とても恥ずかしくなる。彼はとても大人だから、そういう経験もきっと豊富なのだろう。事実、私たちが初めて身体を重ねた時も、浅葱さんの手慣れている感じはすぐにわかった。
「ほんと、ずるいよ・・・」
ずるい、ずる過ぎる。私ばかりがどきどきさせられて、浅葱さんにもどきどきしてほしい。でも、どうやって?わからない、浅葱さんを焦らせることも、どきどきさせる方法も何一つ私は知りはしない。かなとにも相談できる内容じゃないし、お母様には絶対言えない。
「なるようになるかな」
浅葱さんの気持ちを、疑うわけにはいかない。あれだけ真剣に私に思いを伝えてくれて、私もその思いに応えた。疑う必要などない、そうわかっているのに。
「でも、好きだからこそ忘れてはいけない」
そう、好きでも離れなくちゃならない日が来ることを。私が蘇芳で、浅葱さんが鴇和であるかぎり、私たちが交わる道は限りなく無に等しい。一番は私が学生で浅葱さんが社会人であることが、私の中でネックだ。言わば、彼は結婚適齢期で、彼を伴侶にと望む女性は数多くいる。彼に釣り合う女性が現れたら、私はその身を引かなければならない。それが、私にできることだし、むしろしなくてはいけない。隣に別の女性がいる、彼の幸せを、私は願えるだろうか。
「私は、ただの子ども。彼の足を引っ張るのだけはしちゃいけない。彼にみっともなく縋ったりとか、絶対しないようにしなきゃ」
好きだと言っておきながら、別れる日が来ることをわかっている、なんて私はおろかなのだろう。好きに資格はいらない、春人お兄様の言っていることは理解できる。でも私の中でコンプレックスが解決できなきゃ、意味はない。
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