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「かなめさん、お迎えに上がりました」 「はい、浅葱(あさぎ)さん。ありがとうございます」  雨の季節は、昔の傷が痛む。じくじくと、もう血さえも流れてはいない傷跡だけの場所が痛む。そして、それだけじゃなくて私は恋にも心を痛めていた。 「蘇芳家の双子だわ。あの二人の護衛、とてもカッコいいわよね」 「ええ、本当に」 そんなコソコソした話し声が出るほど、私の護衛も双子の弟の護衛もイケメンだった。私に護衛が付いたのは13歳の時、中学校へ入学した時だから、もう7年はずっと一緒だ。 「かなめ、また後で」 「うん、かなと」  私は蘇芳(すおう)かなめ、都内の総合大学に通う大学二年生で蘇芳財閥の次女、いわゆる財閥令嬢。普通の大学に通ってはいるけれど、護衛が通学や出かける時には必ずいるし、大学内では双子の弟である蘇芳かなとが私と一緒に行動をしている。四六時中、私にかなとが張り付いている理由や護衛がいる理由はちゃんとある。この国には大半は人間であるが、一部男性のみにヴァンパイアが存在しており、女性は稀に特殊な能力持った人が生まれる。私たち蘇芳財閥もヴァンパイアの家系で、父も祖父も兄三人もかなともみんなヴァンパイア。そして残った私たち女性の中で、私だけが異能を持った子どもだった。  この国ではヴァンパイアと人間と異能持ちの人間が共存している国。だからといって犯罪がないわけではなく、異能を持った女性は狙われやすく、誘拐事件や誘拐未遂事件が後を絶たない。そういう私も、その異能が原因で誘拐をされたかけたことは何度もある。最初に誘拐されたときに救出されたのは3か月後で、それから護衛がつけられるようになったし、専属護衛として浅葱雅貴(あさぎまさたか)さんがやってきたのは13歳の時だから、この生活には慣れたものだ。基本的に私たちの住む日本は男性のみのヴァンパイアも異能持ちの女性も普段は人間と何ら変わりない生活をしているから普通の人間との違いがない。そのため、異能を持っていると知られて誘拐されることはほとんどない。私の場合は家がお金持ちだったから誘拐されたときに偶然、異能を持っていると知られただけだ。ヴァンパイアが生まれる家はお金持ちが多いようで、一般のお家に生まれるヴァンパイアは珍しいほう。異能を持つ女の子が生まれるよりも確率は少ない。そしてヴァンパイアの特徴は犬歯が人よりほんの少し鋭い、セックスが一種のドラッグのようなレベルで気持ち良すぎる、という点らしい。あとはわりと顔立ちが整っている人が多いことだろうか。 「かなめさん、お手を」 「もう、大丈夫なのに。浅葱さんは心配性ですね」 「かなめさんに傷一つ、つけるわけにはいきませんので」 「では、失礼しますね」  専属護衛である浅葱さんの差し出した手に自身の手を重ねて車までエスコートされる。すでに前に止められていた、かなと専用の車はかなと専属護衛の人の運転で離れてしまっている。 「かなめさん、出発しますよ」 「はい、よろしくお願いします」 浅葱さんの声に慌ててシートベルトをして、小さめのリムジンのふわふわの座席に身を任せる。
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