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02
「お嬢様・・・?」
「いえ、なんでもありません。ごめんなさい」
「もうすぐ、お夕飯のお時間になります」
「はい、すぐに行きます」
帰ってきて、車を降りると、浅葱さんは車を車庫に入れに行ったため家では一緒に行動をすることがない。それはすなわち、もう次の日の朝まで会うことはない、ということだ。浅葱さんに対して恋心を持っている私にとって、それは地獄のような時間だ。会いたい、同じ敷地内にいるのに、会えない。出かけるときぐらいしか一緒にいられないなんて悲しい。でもわがままはいけない。彼は私の家で雇われている私の専属護衛。敷地内で誘拐されるようなことがあり得るならば一緒にいられただろうけれど、そういうことはないから不可能。相手を困らせるようなことは大人な彼にふさわしくない。
「かなめ」
「かなと・・・」
「無事で良かった」
「学校の行き帰り程度で大げさよ」
「そう言って誘拐されかけたことも誘拐されたこともあるだろう」
「そうね・・・、失言だったわ」
「明日は遅くなる、かなめをアイツに頼んだら俺は部活に行くから」
「一人で待てる」
「いや、無理だな。絶対に」
笑いながら私を小突くかなとにふくれっ面で抗議をしようとしたが、そろそろ食事だということを思い出しやめた。
「それより、かなと。もうすぐお夕飯だよ」
「わーってるよ」
かなとと一緒にリビングに向かい、リビング前で姉や兄たちと落ち合う。
「かなめ、無事で何よりよ。かなとも」
「世那姉さん」
「世那お姉様」
「うん、よしよし」
蘇芳世那(すおうせな)、蘇芳家の長女であり、姉弟の頂点。美人で優秀なお姉様、私の憧れであると同時にちょっとしたライバルでもある。世那お姉様は浅葱さんと仲が良いし、年齢も近いから、正直にいうと端から見れば恋人のよう。実際に世那お姉様と浅葱さんがお話ししているのを見た周囲の人はお似合いのカップルだと言っていた。羨ましかったし、妬みもした。私の好きな人なのに、なんて世那お姉様が知りもしないことを思いながら我慢した。
「かなめもかなとも可愛いからなぁ・・・」
「秋人お兄様」
「秋人兄さん、可愛いは辞めてくれ」
蘇芳秋人(すおうあきと)、蘇芳家の長男であり、蘇芳家第二子でもある。そしてヴァンパイアで、ヴァンパイアのわかりやすい特徴、犬歯が私や世那お姉様、お母様よりも鋭い。ヴァンパイアのことは詳しく知らないけれど、もう一つ、特徴としてあげるならば、身体能力が通常よりもずっと高いのだそうだ。ただ、高い、というだけで足が速いだとか力が強いだとか何か突出したようなものは特にないらしい。らしい、というのも、かなとやお兄様たちに聞いたからである。
「さぁ、入るよ」
「はい、世那お姉様」
少しの間、話をしたが、すぐに食事のために部屋へと入り、食事を開始した。
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