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今宵は月がとても綺麗だ。開け放つ障子の先に見える桜の色は、夜が深まるにつれて色味を増している気がする。
料理はすっかり食べ終えた。互いの杯に酒を注ぎ足し、蓮鬼は旅の話を、羽鬼は里の話を互いにしている。
羽鬼の顔は酒気に染まりつつある。片膝を立てて寛いだ様子で笑うこいつの隣で、蓮鬼はその顔や仕草に見入る事が増えた。
上機嫌で話す羽鬼は、蓮鬼のそんな視線に気づいているのかいないのか。だが、ふと交わった視線に気づいた羽鬼の動揺は分かりやすくて、蓮鬼はおかしくて笑った。
「なんだよ」
「いや」
「……なんだよ」
視線を外して動揺を隠すように酒をグビグビと飲み込む羽鬼の尖った耳が朱に染まる。それを肴にクイと酒を飲み込んで、蓮鬼は杯を置いて近づいた。
「なんだ、照れてるのか?」
「な! ちげぇよ!」
「耳まで赤くしている奴がよく言う」
からかう口調で四つん這いに迫れば、逃げ腰の羽鬼がジリジリと後退する。それを追い詰めるのは鬼ごっこのようだ。
ジリッジリッとにじり寄る。後ろに下がる羽鬼の背が、壁についた。蓮鬼はニヤリと笑い、乗り上げるように顔を近づけていく。
「認めたらどうだ?」
「うっせ!」
「俺と目があって照れたのか? ん? 羽鬼」
わなわなと震えながら、「あー」とか「うー」とか唸る羽鬼が可愛いなんて言えば、怒るのかもしれない。だが、これを楽しんでいる自分が確実にいる。これも駆け引き。追い詰めて焦るこいつを見て、楽しんでいるにすぎない。
だが、窮鼠は総じて噛むものと、相場が決まっている。
口元を引き結び、睨み付ける羽鬼の手が伸びてがっちりと首の後ろへ回る。そうして引き寄せられた体が前へ崩れ、羽鬼の唇と重なった。
薄い唇は意外と柔らかいが、牙が当たる。多少痛いがお互い様だろう。合わさっただけの事故みたいな口吸いだが、じわりと胸に迫るものがあったのは確かだった。
離れていく、その時に見せる羽鬼の色香のある表情。細められた目はどこか切なげで、酒気か色気か分からぬ染まった肌、濡れた瞳と、僅かに開いた唇から見える赤い舌。その表情はもう、ガキではなく男だった。
しばし、互いに言葉がない。蓮鬼は呆け、羽鬼は何かを言おうとしては言葉にならない。言い訳をしようとして失敗するガキンチョだ。
さっきの色香とまるで真逆。なのに同居する二つの表情。それらが面白くて、蓮鬼の方が先に吹き出した。
「な!」
「童貞」
「な!!」
「あははははっ」
口吸い一つでこの反応とは、随分初心ではないか。そのくせ格好はつけたがる。その青臭さが可愛いと言えば、こいつはきっと怒るのだろうな。
「笑うな! それに俺は童貞じゃ」
「違うのか? まぁ、顔がいいからそういう相手の一人や二人いてもおかしくはないが」
「そんなのいない! いや、でも童貞は……あんたはどうなんだ!」
「俺か? とっくに」
「なんだと! クソ、誰だよ……」
驚いて、悔しそうに悪態をつく。誰かなんてこいつが知るはずがないし、蓮鬼自身覚えてもいない。本当に欲しいものの代用品など、その場限りだ。
「お前、俺が欲しくてずっと独り寝だったのか?」
分かっていて問う意地の悪さを自覚しながらも、問わずにいられない。羽鬼の表情から、期待している答えが返ってくるとわかっている。だからこそ嬉しく、こいつの口から聞きたいと思ってしまうのだ。
それはもう、告白だろ?
「羽鬼」
「っ! 悪いかよ。第一あんたが突然旅になんて出たから俺は!」
睨みつける羽鬼の唇を、今度は蓮鬼が塞いだ。
驚いて無防備な唇を舌でこじ開けて、絡ませる。ヒクッと震えて逃げそうな腕を掴み、更に深く。熱くて、少し酒臭い口吸いはこちらの頭も酔わせていく。気持ちよくて仕方がない。
「はぁ……」
「口吸いってのは、こうするんだぞ羽鬼?」
すぐにもう一度触れそうな距離でからかうように言う蓮鬼を、羽鬼は悔しそうに睨む。拗ねた子供のようでもある。昔から負けず嫌いなこいつのこういう顔が好きだと言えば、性格悪いだろうか?
「兄者」
「欲しくなったか?」
「なにがっ!」
この期におようでまだ言わないのか。
蓮鬼は羽鬼の股座に手を添えて撫でる。随分とご立派に育った魔羅が窮屈そうにしている。そこをぐりぐりと何度か揉むと、羽鬼は熱い息を吐き出した。
「これ、使ってみたくないのか?」
「兄者」
「お前、俺が欲しかったんだろ? 俺だけが欲しくて、こんな立派な魔羅を使いもせずに一人で寂しく慰めていたんじゃないのか?」
「っ」
僅かに体を折る羽鬼の息が上がる。睨みつける恨みがましい目は、飢えたように光り獲物を欲している。その目に、ゾクゾクする。
蓮鬼は笑みを深めて羽鬼の耳元に唇を寄せた。
「ほら、どうするんだ?」
途端、世界がひっくり返った。手首を掴まれ仰向けに押し倒されたんだと理解したのは、天井を見たあとだった。
「っくしょう。俺の気も知らずに……」
「羽鬼」
「あんたに憧れて、あんたに惚れて! なのに逃げられた俺の気持ちがわかるか。それで、言えるかよ。あんたが好きだと言った途端、年一回のこの逢瀬すらなくなるんじゃないかと思ったら黙るしかねぇだろ。なのに……煽るとか鬼か」
「あ……」
鬼だけどな、お前も俺も。
とは、さすがにこの空気では言わなかった。そのかわり腕を伸ばして頭を撫でた。硬いつんつんした白髪を撫でて、近づいてきた唇を受け入れた。
羽鬼は器用な奴だった。それはここでも遺憾なく発揮された。舌を這わされ、くすぐったくて開いたところから侵入される。絡めて、吸って。牙が当たらぬようにと気遣いながら切なげにされる口吸いに、興奮よりも前に切なさが募った。
「あんたが好きだ、兄者」
「あぁ、知ってたよ」
「本当に、あんただけだったんだ」
「悪かったから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ羽鬼。俺が悪かった」
もうこれで、気は済んだ。そして存外満足した。今まで満たされなかった部分が埋まった、そんな気がしている。
着物を開けられ、唇が触れる。おっかなびっくり触れるから、余計にくすぐったくて笑ってしまう。すると今度は拗ねるのだ。子供かこいつは。
「笑うなよ」
「くすぐったいんだよ」
「どうすればいいかなんて、分かんねぇんだよ」
「童貞いねぇ」
「うっせ!」
そっぽを向く羽鬼が、意趣返しとばかりに鎖骨に牙を突き立てる。走る痛みは心地よいくらい。多少跡がつく程度の痛みなら悪くない。
「してみたい事とか、あるんじゃないのか?」
「…………あることは、ある」
「してみたらいいじゃないか」
硬い前髪を撫でて、角の根元を軽く揉むように撫でる。それにビクリと震えた羽鬼の、色香を増す濡れた瞳を心地よく見返す。
羽鬼の手が伸びて、優しく蓮鬼の髪を梳き、角の根元に触れる。優しい手つきは愛しさを感じると共に、快楽を与えてくる。ここは弱い部分だ。
「すっげぇ、艶っぽい」
「はぁ?」
「今すぐ犯したい」
「もうしてんだろ」
舐めるような視線に蓮鬼の方が落ち着かない。鼓動が早くなるのを感じる。
近づいてくる唇が、柔らかく触れた。荒っぽくない触れるだけのものだ。見た目は多少雑そうなのに、そうはならないのがこいつらしい。惚れた相手は生涯守り抜くという質だろう。
手が肌を滑る。しっとりと汗ばむ肌を確かめるように胸元や脇腹、腹筋の辺りまで。柔らかい女の肌なら楽しかろうが、硬い筋肉ばかりの男の体をそんなに触って何が楽しいのか。
だが、まぁ……いいのだろう。蓮鬼も羽鬼の背中に触れて、引き締まった体を堪能している。背にある翼の紋にも触れているだろう。羽鬼は嬉しそうに笑う。
「気持ちいいのか?」
「惚れた相手が紋に触れるんだ、当然だろう」
体の数カ所に浮かぶ紋。特に何があるわけでもないが、情事の時に触れられると気持ち良く感じる。好意を持つ相手なら余計にそうだ。
羽鬼が脇腹にある蓮の紋に触れる。それだけでゾクリと体は震えた。心地よくて、身を任せてもいい気がしてくる。そのくらいには受け入れているということなのだろう。
心地よく体を僅かにしならせる蓮鬼の喉元に、羽鬼が唇で触れる。弱い部分を晒すというのは不安はあるものの、それ故の興奮もある。唇で触れ、舌を這わせるその感触に体の芯が震えるのを、蓮鬼は感じていた。
唇はそのまま徐々に下へと降りていく。鎖骨の辺りを通って、やがて胸元へ。膨らみのない平らな胸を片手で揉み、乳飲み子のように小さな乳首に吸い付く。なんともムズムズと落ち着かないが、見た目には愛おしさも感じる。男の面白みもない胸に必死に吸い付き舌で愛撫をして。ないはずの母性が湧くというものだ。
「まるで乳飲み子だぞ、羽鬼」
「乳飲み子はこんな風にここを吸いはしないだろ」
見上げて、わざとらしく音を立てて乳首を吸う。唇を離し、見せつけるように舌先で潰し、舐め上げる。淫靡な光景にゾクゾクと、蓮鬼も興奮を覚えた。
「どうした兄者、ここが硬くなってきたぞ」
「そんなはずは、っ!」
女ではあるまいし、胸で快楽など今まで拾った事はないはずだ。
だが否定の言葉の直後にほじくるように舌先で突かれ、妙な気持ちよさに痺れるのを感じて、蓮鬼は戸惑った顔をした。確かにそこは硬くしこり、ぷくりと形を変え始めていた。
目を丸くする蓮鬼を見て、羽鬼はニヤリと笑う。そして執拗にそこを攻め立てた。
「こら、やめっ……っ!」
「止めろと言うわりに、よさそうだな兄者」
「お前! くっ……はぁ……」
唾液でぬらりと光る乳首を指で摘ままれ、ブルリと腹の底から震えが走った。どれだけ理性が否定しようとも、これは紛うことなき快楽だと本能が認めてしまっている。しかも腹の底が疼くなど、女役なのだと認めているに等しい反応だ。
そして何より、それでも劣等感を抱かないというのが全てに思えた。
「もっ、分かった……分かったから、そこばかりは止めてくれ。腹が切なくてたまらないんだ」
「!」
素直に認めて訴えれば、羽鬼はギョッとして体を離し、蓮鬼の体を見回す。胸を攻め立てられて大きく愚息を膨らませている恥ずかしい姿を食い入るように見つめる羽鬼は、次第に顔を赤くしていった。
「お前が顔を赤くしてどうする」
「いや……なんというか、想像よりも媚態が腰にくる」
「あははははっ」
素直に照れて口元を隠す姿は初。こんなにも蓮鬼を煽ったのは羽鬼だというのに。
観念して、蓮鬼は自ら下を脱ぎ捨てる。着物はまだ袖を通したまま、中途半端に前を開けているというのに下は何もつけていない。酒気か興奮か、薄らと肌を染めた蓮鬼の愚息は堂々とそそり立ち、触れてもいないのにヌラヌラと先走りで濡れ光っていた。
ゴクリと、羽鬼が唾を飲み込む。こっちはまだ下を履いているが、それでも股間の膨らみは隠しきれていない。
蓮鬼は手を伸ばし、服の上から指を這わせた。くすぐるように優しく、欲情を煽るように淫靡に窮屈そうな前を寛げ、物欲しげな逸物に触れる。蒸れた男の匂いが鼻に触れるが、不思議と嫌悪はないものだ。
「物欲しげにおっ勃てて」
「兄者!」
制止するように羽鬼は切羽詰まった声を上げるが、それで蓮鬼が止まるわけがない。下着から取り出すと、凶悪なそれが現れる。硬く大きな逸物は蓮鬼よりも大きいだろう。
それに、蓮鬼は触れて固定し、舌を這わせた。
「兄者! んなことしなくてもっ!」
「初めてだろ? 気持ちいいなら楽しめ」
「やっ、もう……おいぃ!!」
しっかりと傘の張る亀頭、筋が脈を打ち血管が浮く。鬼だけに金棒かってくらい硬いそれを、蓮鬼は喉奥へと招き入れる。牙に触れぬよう気をつけて、丁寧に舌と口内で愛撫すれば我慢出来ずに先走りをこぼす。少ししょっぱくい。そして臭いが鼻にも抜ける。これを嫌悪しない日がこようとは、想像もしていなかった。
「はぁっ、もっ、口離せ! 出るから!」
「いいぞ、出しても。初めての記念だ」
切なげに眉を寄せ、苦しげに熱い息を吐く羽鬼がブルリと体を震わせる。そして、促すように吸い上げ鈴口に舌を潜り込ませた瞬間、大きく膨らみ果てていった。
口腔に子種を吐き出し僅かに腰を揺らす羽鬼の、悔しげでありながらも欲情した顔。鋭い視線にまた、ぞくりと体が震えた。
伸び上がり、唇を重ねる。驚いた羽鬼は舌を這わせるととても嫌な顔をした。
「おま! 俺のを搾り取ったままだろ!」
「愛情を示しているというのに、不満か?」
「嫌がらせだろ!」
「まぁな」
「おい!」
それでも口吸いの前に飲み込んだのだから、そんなに怒らないでもらいたい。まぁ、確かに嫌がらせ半分ではあるのだが。
「それにしても、一度出したのに全然萎えないな」
出したばかりなのに元気なそこをちょんちょんと突く蓮鬼に、羽鬼は恥ずかしげに目線を外した。
くつくつと笑い、蓮鬼は引出しの中から油の入った小瓶を出した。髪に使う椿油だが、これくらいしか潤滑油が思い浮かばないのだ。
それを指に纏わせ、四つん這いになる。そうして油を纏わせた指を一本、恐る恐る後ろへと伸ばした。
「んっ」
「おい!」
「っ、はぁ……」
菊座に触れ、寛げるように緩く押し込んでみる。衆道ではこうすると聞いていたが半信半疑だった。が、徐々に緩まるのを感じてあっているのだと、どこかほっとした。
見れば羽鬼はドギマギと蓮鬼を見ていて、どうにも出来ずに固まっている。
「ここ、使うんだろ?」
「え! あっ、おう」
「……男にはここしか穴がないんだ。躊躇うなら、今は止めておこう」
この奥が疼くし、蓮鬼は羽鬼が相手であれば構わないと思っている。だが、いざこうした準備を目の当たりにすると尻込みもするだろう。蓮鬼だって恋人が突然自ら尻穴を慣らし始めたら引くかもしれない。無理をする事はない。
だが羽鬼はキッと蓮鬼を睨み、四つん這いになる蓮鬼の前へと回って顎を捕らえて唇を寄せる。さっきは嫌がったのに。
「今更、誰が引くってんだ。ちょっと驚いただけだ」
「そう……か。ははっ、そうだな」
こんな事、されど大事な事。安心したのは確かだった。
羽鬼が尖った乳首を捻り、涎を垂らす愚息を扱く。快楽が深くなった途端、硬かった蕾みは楽に綻んで指の一本を易々と飲み込んだ。自らの手で自らの臓物に触れるというのは妙な感じだ。
「なぁ」
「なんだ?」
「それ、俺がやってもいいのか?」
「はぁ??」
突然の申し出に目を丸くする蓮鬼にかまいもせず、羽鬼は後ろへと回って油をまぶし、菊座の周辺にも垂らして馴染ませていく。そして蓮鬼の指を引き抜くと、柔らかく解れたそこに指を二本揃えてゆっくりと力を加え始めた。
「あっ、あぁ……んぅぅ!」
自分でするのとは違う、圧迫感と熱。ぎこちないまでも指は内壁へと触れ、出入りを繰り返していく。最初は感じた違和感や圧迫感が、出入りされ解されていくにつれて薄らいでいく。それに比例するように、ゾクゾクした快楽が腰骨を伝い脳を揺らしていく。自然と息が荒くなって、蓮鬼は四つん這いの姿勢を保つだけで精一杯になっていった。
「気持ちいいんだな」
「なっ、うっ!」
「腹の中、凄く熱くなってきている。それに絡みついて、締め付けて……くそ、我慢しなきゃなんねぇのに、誘うなよ!」
「無茶言うな! あっ! はぁあぁ!」
指がグリッと押し込まれ、何かに触れた。瞬間、雷でも流されたように背を鋭い快楽が走り脳を揺さぶった。ビリビリと痺れて、頭の中が白くなる。絶頂の時に似た刺激に、蓮鬼の腕はガクンと落ちて尻だけを高く上げた恥ずかしい格好になってしまった。
「ここ、気持ちいいのか?」
「やめ! あっ! いっ……あぁぁ!」
ビクンッと腰が跳ねる。内腿が震える。腹の奥が締まる。切ない気持ちと切迫感がない交ぜになり、緩んだ口元から唾液が溢れてぽたりと落ちた。
愚息が痛いくらいに張り詰めて、タラタラと先走りをこぼして下にシミを作っていく。糸すらも引きそうなそれに、羽鬼が触れて緩く上下に扱きだした。
「あっ! あぅ! はっ、やっ……ぅあぁ!」
「気持ちいいんだろ? ここ、すげぇ吸い付く。こっちもパンパンに張り詰めてるだろ」
「達っ……達く! もっ、やぁ!」
「出せばいいだろ? 俺の手で、な?」
「っ!!」
中を強く押し込まれ、同時に先を擦られて、目の前が点滅したようだった。勝手に腰が跳ね上がり、白濁が勢いよく床に吐き出されていく。それでも尚、快楽の波が引く感じがしない。余韻が長いのはきっと、羽鬼が中に入れた指をまだ動かしているからだ。
「はぁ……たまんない締め付けだぜ、兄者」
「羽鬼、もっ……動かすな!」
腹の中が熱い、痺れて溶けてしまいそうだ。腰が抜けてしまったように力が入らない蓮鬼の中から指を引き抜いた羽鬼はそのまま仰向けにひっくり返し、物欲しげに口を開ける菊座へと硬く張り詰めた己の逸物を押し当てた。
「おい……まさか……」
「童貞、捨てさせてくれるんだろ?」
ミチリと力が加わり、僅かに口を開けていた部分が大きく広がっていく。薄く広げられる部分は痛みを伴うが、入ってくる熱さに中が焼けそうで、ゾクゾクと這い上がる快楽に背がぞわぞわした。
「まっ……くぁあ!」
「くっ、締まる……」
肩口に頭を埋め、ゆっくりと出入りしては奥まで進もうとする羽鬼の背中を、蓮鬼は抗議を含めてバンバンと叩く。が、それでどくような可愛い奴ではない。焼けた杭をゆっくりと埋め込むように腰を進められ、痛みよりも痺れの方が強くなってきた。
「こっち、すっかり萎えちまったな」
蓮鬼を見て愚息が痛みで萎えたのを見つけ、羽鬼はそこに手を伸ばす。上下に扱かれると余計に痛みと快楽がグチャグチャに混ぜられて、蓮鬼は背をしならせて堪えられない声を上げた。
「くそ、気持ちいぃ」
「くっ、そ……あぁ!」
慣れてしまえば勝手知ったるなんとやらだ。腰を掴まえ抽送を繰り返す羽鬼の剛直が内壁を擦り上げていく。浅い部分もいいが、疼いていた奥に先端が到達すると完全に意識を持って行かれる。声を抑えれば気が触れる。そんな気さえする。
ずっと達きっぱなしで、降りてきていない。腹の上はドロドロで、少しの刺激で吐精できそうなくらいきている。もう理性もギリギリで掴んでいる状態で、頭の中は出したいという欲望ばかりが巡っている。
「兄者」
切なげに呼ばれ、涙目で見上げる羽鬼の唇が重なる。色気をダダ漏らしにした視線なのに、なんだか泣きそうでもある。たまらなくて、蓮鬼は首に腕を回して引き寄せた。
貪るように、互いを求めて交わした情は確かに繋がっただろう。蓮鬼の中で果てた羽鬼を受け止め、蓮鬼も果てた。気怠くて、ぼんやりと羽鬼を見ていると再び唇が重なる。
こいつ、好きだな……なんて、ぼんやりと思った。
「兄者」
「あぁ……」
「兄者、好きだ……側にいてくれよ」
肩口に顔を埋めて呻くように言う羽鬼の頭を、蓮鬼は静かに撫でた。
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