桜狂いて、鬼惑う夜

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 一つ寝床に寝転んで、蓮鬼は庭の桜をぼんやりと見る。隣では羽鬼が寝息を立てている。  どうにも離れがたくなってしまった。いや、それでもいいとは思っているのだが。  想いが成就しないのなら、知らぬふりをして再び旅に出る。そうして一年頭を冷やして戻ってきて、まだこの想いは冷めていないのだと思い知って、また頭を冷やしに出る。それの繰り返しだ。  だが、この想いは今夜成就したのだろう。ここでまた旅に出ると言えば、羽鬼は今度こそ激怒するか、無理矢理にでもついてくるに違いない。 「まぁ、捕まってみるのも悪くはないか」  呟いた蓮鬼は満足げに笑う。そして、明け始めた空を背に布団に潜り込み、再び寝入るのだった。 【完】
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加