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* * *
晴天ということもあるのか、数時間が経った頃には、芝生の上に直に座ったり転がったりして談笑している部員の姿も散見できるようになっていた。中にはレジャーシートを敷いて寝ている者もいる。
今年度のサークル活動として最後の日ということもあり、終了時刻は特に設けられていなかった。
帰りたければ一言断って帰ればいいし、そうでなければ何時まででもいればいい。けれども、実際に途中で帰った部員なんてほとんどいない。皆ここぞとばかりに楽しんでいるようだった。
気がつくと、すっかり出来上がっていた輪の中には静もいて、
(……俺以外の前だとあんなふうに笑うんだ)
初めて目にしたわけでもないのに、そう感じた瞬間、心の奥底で澱のようなものがふわりと舞った気がした。
* *
(……?)
息抜きと称して、少し離れたベンチで煙草をふかしていた俺は、視界の端でふいに立ち上がった人影に気付いて顔を上げた。そのままふらりと輪を抜けたのは静だった。
(……煙草、か)
静はまっすぐ二階へと続く階段を上り始めた。その先にある部室は、今夜は単なる荷物置き場と化している。静の私物もそこにあるのだろう。
直前の彼の仕草から、静が何をしにあの部屋に向かったのかはすぐに分かった。彼は立ち上がる前、ポケットを探っていた。
切らした煙草を取りに行ったのだ。
(? ……酔ってる?)
僅かによろめき、手すりを掴む。ふと目にしたそんな様子に、俺は思わず瞠目する。階段を上りきり、廊下を歩く足取りもどこか覚束なく見えた。
珍しい。もしかしたら、静も意外と飲んだのかもしれない。――明日花のワインを。
「…………」
俺は傍らに置いていた空き缶の中に吸いかけの煙草を落とすと、おもむろに立ち上がった。
そして間もなく部屋の中へと姿を消した静を追うように、自分も部室へと足を向けた。
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