*9.君を抱いてはいけない

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 *  *  明らかな拒絶を示す彼の身体をテーブルの上へと引き倒し、胸元を押さえつけながら唇を重ねる。彼の手が俺を押し返そうと動くけれど、体格も力も俺の方が上だ。構わず顎に指をかけ、強引にその歯列を割った。  傍らの床には新品の煙草のパッケージと、そこから抜かれたばかりの一本の白筒が転がっていた。  捻り込ませた舌先で上顎を擽る。逃げようとする舌を押さえつけ、掬うようにして絡め取る。馴染みのある煙草の味が妙に俺の気分を煽った。 「……っ…!」  そこにピリ、と痛みが走る。  静が必死に身を捩り、俺の舌に歯を立てたのだ。  とっさに顔を浮かせると、遅れて口の中にじわりと血の香りが広がった。 「っ……見城さん……飲み過ぎです」  俺の肩を突っぱねるように掴んだまま、静は真っ直ぐに俺を見上げてくる。その唇は濡れている。  大声を上げて騒ぐようなことはしない。それでも動揺を隠しきれないその眼差しに、俺は楽しいように目を細め、僅かに口端を引き上げた。 「本当は酔ってないって言ったら?」 「……酔ってないなら尚更です」 「尚更……?」  今すぐにでもやめるべきだと頭の片隅でずっと警鐘が鳴っている。  だけどそれを凌駕する衝動に抗えない。  多分自分で思うより酔っているのだ。そうでなければ、俺がこんな迂闊な真似をするはずがない。だって俺は今でも恋愛する気はないのだから。その上で、彼とはいい関係でいたかった。  そこはぶれていないのに、こんな稚拙な方法(やり方)で自らそれを壊してしまうなんて。 「俺……、――とだけは……」  こんな時でも冷静に振る舞おうとしながら、そのくせ怯むように上擦る彼の声が、かえって俺の情欲を刺激する。 「何……? 聞こえない」  あえて優しく問い返せば、彼の双眸が苦いように揺らぐ。  ややして、彼は答えた。 「……俺、アンタとだけは寝たくない」
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