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明らかな拒絶を示す彼の身体をテーブルの上へと引き倒し、胸元を押さえつけながら唇を重ねる。彼の手が俺を押し返そうと動くけれど、体格も力も俺の方が上だ。構わず顎に指をかけ、強引にその歯列を割った。
傍らの床には新品の煙草のパッケージと、そこから抜かれたばかりの一本の白筒が転がっていた。
捻り込ませた舌先で上顎を擽る。逃げようとする舌を押さえつけ、掬うようにして絡め取る。馴染みのある煙草の味が妙に俺の気分を煽った。
「……っ…!」
そこにピリ、と痛みが走る。
静が必死に身を捩り、俺の舌に歯を立てたのだ。
とっさに顔を浮かせると、遅れて口の中にじわりと血の香りが広がった。
「っ……見城さん……飲み過ぎです」
俺の肩を突っぱねるように掴んだまま、静は真っ直ぐに俺を見上げてくる。その唇は濡れている。
大声を上げて騒ぐようなことはしない。それでも動揺を隠しきれないその眼差しに、俺は楽しいように目を細め、僅かに口端を引き上げた。
「本当は酔ってないって言ったら?」
「……酔ってないなら尚更です」
「尚更……?」
今すぐにでもやめるべきだと頭の片隅でずっと警鐘が鳴っている。
だけどそれを凌駕する衝動に抗えない。
多分自分で思うより酔っているのだ。そうでなければ、俺がこんな迂闊な真似をするはずがない。だって俺は今でも恋愛する気はないのだから。その上で、彼とはいい関係でいたかった。
そこはぶれていないのに、こんな稚拙な方法で自らそれを壊してしまうなんて。
「俺……、――とだけは……」
こんな時でも冷静に振る舞おうとしながら、そのくせ怯むように上擦る彼の声が、かえって俺の情欲を刺激する。
「何……? 聞こえない」
あえて優しく問い返せば、彼の双眸が苦いように揺らぐ。
ややして、彼は答えた。
「……俺、アンタとだけは寝たくない」
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