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(……アンタと、だけは……?)
その言葉に、どくんと大きく心臓が鳴った。
アンタって言われたのも初めてだけど、〝だけ〟って……〝だけは〟って一体どういう意味? 何でそういう言い方になる?
俺じゃなかったらいいってことか? 俺以外なら、異性じゃなくても?
――同性、でも……?
動きを止めた俺に、静は小さく息をつき、改めて退くのを促すように俺の肩を押し返す。
そうしながら、他方の肘を身体の脇に付き、上体を持ち上げようと身じろいだ。
――けれども、それを俺が許すはずがない。
俺は掴んでいた彼の襟元をいっそう強く押さえつけた。
「……っ」
「ねぇ、静……それってどういう意味?」
「意味、って……」
束の間ほっとしたような顔を見せた静を、再び追い詰めるように言葉を紡ぐ。
「――ストレートじゃなかったの?」
口にすると、身体ごと震えそうなほどの拍動を感じた。
暗がりの中、儚げな月明かりに照らされた静の表情が僅かに歪む。静は何も答えないまま、ただ黙って俺から視線を逸らした。
その反応に確信する。まさかと思う一方で、今になってやっぱりと都合よく腑に落ちた。
(こんなことなら……)
もっと早くに手を出しておけば良かった。
何も考えず、触れて、抱いて、キスをして。そうしていれば、とっくに彼は俺の物だったかもしれないのに。
……なんて、ひどく直情的な考えが頭を過ぎり、俺は奥歯を噛み締める。
仮にそうなっていたとして、そこに未来がないのは明白なのに。仮初の関係なんて、それこそ静を傷つけるだけだ。
だってあくまでも俺が求めているのは端から見ればセフレとしか言いようがない関係で――彼はそれを簡単に受け入れられるようなタイプではない。
それは分かっている――分かっているのに。
「見城さん……目、覚ませよ。今だったら、酒のせいだったって……俺も思うから」
忘れるから。
見たくないように目を背けたまま、静は呟くように言った。諫めるようでありながら、諦めたようにも聞こえる声音。
「……嘘だよ」
「え……?」
「君にそれはできない。……君は忘れないよ」
俺は小さく笑って言い切ると、彼のシャツを掴んでいた手を緩め、そのままボタンを外し始めた。
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