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あらわになった彼の素肌に視線を落とす。試すみたいに首筋に触れ、鎖骨へと滑らせた指先で窪みを撫でる。
ひく、と静の喉が鳴り、逃げたいように上体がたじろぐ。なのにその口はなおも律儀に俺の名を紡ごうとする。
「見城さ……」
「もう、黙って」
俺はその唇に人差し指を押し当てた。
そうしながら、彼の耳元に顔を寄せる。
「悪いようにはしないから」
優しく言い聞かせるように囁くと、ようやく彼の身体から力が抜ける。
扉に鍵はかかっていない。部屋が静かになると、それだけで外からの声が聞こえてくる。覚えのある笑い声。明日花の声も混ざっている。
俺は開いた合わせの下に手のひらを差し入れながら、確かめるように静の顔を見た。
どことない中空を見詰めていた彼の瞼が、目の前でそっと伏せられた。
受け入れられたのではない。諦めたのだ。
それは見るも明らかなのに、一方で許されたような錯覚に陥りそうになる。
「いい子だね……」
静の目元に、宥めるようなキスを落とす。それから淡々と位置をずらし、頬から首筋、首筋から胸元へと唇を辿らせていく。
淡い色づきの周辺に、ちゅ、ちゅ、と微かなリップ音を響かせながら、ほのかな痕を刻む。かと思えば、不意打ちのように一方の突起へと舌を伸ばし――。
「……っ!」
慎ましく隆起した先端を戯れに弾けば、ぴくりと小さく揺れる肩。押し殺された吐息が跳ねて、呼吸が乱れる。上目に見遣れば、その目端はたちまち赤みを増して、伏せられた睫毛がもどかしいように震えていた。
(可愛い……)
たったそれだけのことにこの上なく煽られる。
……もっと触れたい。
もっと乱れさせたい。
――もっと啼かせたい。
「……静」
名を呼ぶと、いっそう心拍数が上がった。
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