*9.君を抱いてはいけない

11/14

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 あらわになった彼の素肌に視線を落とす。試すみたいに首筋に触れ、鎖骨へと滑らせた指先で窪みを撫でる。  ひく、と静の喉が鳴り、逃げたいように上体がたじろぐ。なのにその口はなおも律儀に俺の名を紡ごうとする。 「見城さ……」 「もう、黙って」  俺はその唇に人差し指を押し当てた。  そうしながら、彼の耳元に顔を寄せる。 「悪いようにはしないから」  優しく言い聞かせるように囁くと、ようやく彼の身体から力が抜ける。  扉に鍵はかかっていない。部屋が静かになると、それだけで外からの声が聞こえてくる。覚えのある笑い声。明日花の声も混ざっている。  俺は開いた合わせの下に手のひらを差し入れながら、確かめるように静の顔を見た。  どことない中空を見詰めていた彼の瞼が、目の前でそっと伏せられた。  受け入れられたのではない。諦めたのだ。  それは見るも明らかなのに、一方で許されたような錯覚に陥りそうになる。 「いい子だね……」  静の目元に、宥めるようなキスを落とす。それから淡々と位置をずらし、頬から首筋、首筋から胸元へと唇を辿らせていく。  淡い色づきの周辺に、ちゅ、ちゅ、と微かなリップ音を響かせながら、ほのかな痕を刻む。かと思えば、不意打ちのように一方の突起へと舌を伸ばし――。 「……っ!」  慎ましく隆起した先端を戯れに弾けば、ぴくりと小さく揺れる肩。押し殺された吐息が跳ねて、呼吸が乱れる。上目に見遣れば、その目端はたちまち赤みを増して、伏せられた睫毛がもどかしいように震えていた。 (可愛い……)  たったそれだけのことにこの上なく煽られる。  ……もっと触れたい。  もっと乱れさせたい。  ――もっと啼かせたい。   「……静」  名を呼ぶと、いっそう心拍数が上がった。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加