1.君と出会ったその意味は

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 望むもの全てを手に入れるなんて無理に決まっている。少なくともそんな器用な真似、俺にはできない。それが自分の性分だと、分かっているから俺は今日も線を引く。  急がなくても、いつかその時がくる。そう自分に言い聞かせ、幾重にも予防線を張るのだ。  ――何より、自分が後悔しない(傷つかない)ために。 (だから、恋愛はしない――少なくとも、現在(いま)はね) 「じゃ、じゃあ、思い出に……キス、だけでも」  ややして、彼女は絞り出すように言った。  同じ学科の、同級生。小柄で明るく、誰とでも仲良くなれる可愛らしい女の子。なのに俺と同じでずっと恋人がいなかった。聞けば入学式の日から俺だけを見てくれていたらしい。  そんな彼女の口から、〝思い出にキスだけでも〟なんて言わせてしまったのが何だか申し訳なかった。 「ごめんね。それももうしないって決めたんだ」  それでも俺は断った。  再度「ごめんね」と重ねて微笑むと、ようやく彼女も顔を上げ、「そっか」と笑顔を浮かべてくれた。  *  *  * 「……キスもハグもしなかったんですね」  俺が呼び出された場所――学食やカフェの入っている建物の陰――から彼女が去っていくと、ややして頭上からカランというドアベルの音が聞こえてきた。仰ぎ見るようにして視線を向ければ、見知った一人の青年が外階段を下りてくるところだった。
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