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卒業式が終わり、会場から外に出ると、ややしてどこからか声をかけられた。視線を巡らせれば、見知った後輩たちが、何人かの4年生をそれぞれ捕まえ、近くにある桜の木の下まで誘導していた。演劇サークル縁のメンバーだった。
4年生は全部で10人ほど。
一箇所に集められた4年生は横一列に並ぶよう促され、やがてその一人一人に、花束が手渡され始めた。
「……卒業、おめでとうございます」
俺の前に立ったのは、静だった。
きっと自分からその役を選んだわけではないだろう。だけど断ることもできなかったに違いない。
もちろん、俺は嬉しいけどね。
「ありがとう」
差し出されたそれを受け取りながら、下ろしたままの髪を緩やかに掻き上げ、ふわりと微笑む。
白シャツに黒一色のスリーピース。淡いピンクのネクタイはちょっと迷ったところでもあったけれど、一緒に記念写真を撮った莉那はすごくいいと言ってくれた。
だけど本当に気になるのは静の評価だ。
……まぁ、端から興味ないと思われていたらそれまでだけど。
「ああ、そうだ、静。一つだけ言ってなかったことがあるんだ」
あれから静は、俺とはあまり目を合わせてくれなくなった。それでも露骨な――傍目から見て分かるような――態度をとられることはなく、それをいいことに俺は何事もなかったように話しかける。
「……何ですか?」
「俺ね。院、行くから」
「…………は?」
思い出したように言うと、静はゆっくり顔を上げた。その双眸を、信じがたいように見開いて。
「もう誰かから聞いてると思ってたけど……知らなかった?」
瞬きも忘れて、俺を見返してくる静に、俺はいっそう笑みを深めて見せる。
「じゃあ、ほら、あれだね。サプラーイズ!」
揶揄めかして静の肩をぽんと叩けば、その身がぴくりと小さく揺れた。
「…………じゃ、ねぇ」
「ん?」
静は俺の手をそっと払い、静かに視線を下向けた。その唇が堪えかねたように戦慄き始める。
「……ざけんじゃねぇ」
他の誰も気づかないような声。口の中でぶつぶつとこぼすようにして吐き捨てられたそれを、俺は辛うじて聞き取った。
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