10.リスタートと言う名の

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 卒業式が終わり、会場から外に出ると、ややしてどこからか声をかけられた。視線を巡らせれば、見知った後輩たちが、何人かの4年生をそれぞれ捕まえ、近くにある桜の木の下まで誘導していた。演劇サークル縁のメンバーだった。  4年生は全部で10人ほど。  一箇所に集められた4年生(俺たち)は横一列に並ぶよう促され、やがてその一人一人に、花束が手渡され始めた。 「……卒業、おめでとうございます」  俺の前に立ったのは、静だった。  きっと自分からその役を選んだわけではないだろう。だけど断ることもできなかったに違いない。  もちろん、俺は嬉しいけどね。 「ありがとう」  差し出されたそれを受け取りながら、下ろしたままの髪を緩やかに掻き上げ、ふわりと微笑む。  白シャツに黒一色のスリーピース。淡いピンクのネクタイはちょっと迷ったところでもあったけれど、一緒に記念写真を撮った莉那はすごくいいと言ってくれた。  だけど本当に気になるのは静の評価だ。  ……まぁ、端から興味ないと思われていたらそれまでだけど。 「ああ、そうだ、静。一つだけ言ってなかったことがあるんだ」  あれから静は、俺とはあまり目を合わせてくれなくなった。それでも露骨な――傍目から見て分かるような――態度をとられることはなく、それをいいことに俺は何事もなかったように話しかける。 「……何ですか?」 「俺ね。院、行くから」 「…………は?」  思い出したように言うと、静はゆっくり顔を上げた。その双眸を、信じがたいように見開いて。 「もう誰かから聞いてると思ってたけど……知らなかった?」  瞬きも忘れて、俺を見返してくる静に、俺はいっそう笑みを深めて見せる。 「じゃあ、ほら、あれだね。サプラーイズ!」  揶揄めかして静の肩をぽんと叩けば、その身がぴくりと小さく揺れた。 「…………じゃ、ねぇ」 「ん?」  静は俺の手をそっと払い、静かに視線を下向けた。その唇が堪えかねたように戦慄き始める。 「……ざけんじゃねぇ」  他の誰も気づかないような声。口の中でぶつぶつとこぼすようにして吐き捨てられたそれを、俺は辛うじて聞き取った。
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