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「ふざけんじゃねぇ」って言った。「何がサプライズだ」って。
言われてみればそうかもしれない。
だけど別に、狙って今まで黙ってたわけじゃない。本当に。ただ告げるタイミングがなかっただけで――。
思ったけれど、静のその反応が思いの外可愛く見えて、気がつくと俺は肩を揺らして笑っていた。
「……何、笑って……」
「あぁ、いや……」
「は……?」
「うん……まぁ、だから、あと二年……ね? よろしく、って言いたくて。君が卒業するまで」
「何……っがよろしくだよ。マジふざけんな」
……静の言葉が辛辣だ。
そんな口調でそんなセリフ、今まで言われたことはなかった。
そのことに何だか妙に気分が上がる。彼との距離が急激に縮まった気がして、気恥ずかしいような、擽ったいような年甲斐もないような心地に包まれる。
「今日って、花束のためだけに来たんだよね? 帰り、送るから一緒に帰ろう。良ければそのままランチでも」
「何でそうなるんだよ」
当たり前のように誘っても、当たり前には乗ってくれない。
「……つか、そのままって……その格好で?」
「だめかな?」
「アンタさ……自分のそういうの、もうちょっと自覚しろよ」
静は当て付けるように溜息をつく。
(……ん?)
え、待って。
それって……。
それって、もしかして。
(俺、褒められてる?)
思い至ると、たちまち目端が熱を持つのが分かった。
……どうしよう。嬉しすぎて顔がにやける。
「……気持ち悪」
それでも努めて通常通りに微笑んでいたつもりなのに、どうやら失敗していたらしい。
俺は誤魔化すように再度髪を掻き上げ、咳払いを一つして――それから結局破顔した。
「みんなっ、本当にありがとう!」
横から明日花の涙声が聞こえてくる。見れば下級生の一部も泣いていた。
それぞれの思い出話も何とか区切りがついたようで、そこで名残惜しくも解散となる。
「じゃあ、行こうか」
俺は改めて声をかける。
相変わらず静はうんとは言わない。
だけどノーとも言わなかった。
「何食べたい?」
念を押すようにかけたその言葉にも――そして、先に告げた〝あと二年〟という言葉に対しても。
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