10.リスタートと言う名の

3/3

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 「ふざけんじゃねぇ」って言った。「何がサプライズだ」って。  言われてみればそうかもしれない。  だけど別に、狙って今まで黙ってたわけじゃない。本当に。ただ告げるタイミングがなかっただけで――。  思ったけれど、静のその反応が思いの外可愛く見えて、気がつくと俺は肩を揺らして笑っていた。 「……何、笑って……」 「あぁ、いや……」 「は……?」 「うん……まぁ、だから、あと二年……ね? よろしく、って言いたくて。君が卒業するまで」 「何……っがよろしくだよ。マジふざけんな」  ……静の言葉が辛辣だ。  そんな口調でそんなセリフ、今まで言われたことはなかった。  そのことに何だか妙に気分が上がる。彼との距離が急激に縮まった気がして、気恥ずかしいような、擽ったいような年甲斐もないような心地に包まれる。 「今日って、花束の(この)ためだけに来たんだよね? 帰り、送るから一緒に帰ろう。良ければそのままランチでも」 「何でそうなるんだよ」  当たり前のように誘っても、当たり前には乗ってくれない。 「……つか、そのままって……その格好で?」 「だめかな?」 「アンタさ……自分のそういうの、もうちょっと自覚しろよ」  静は当て付けるように溜息をつく。 (……ん?)  え、待って。  それって……。  それって、もしかして。 (俺、褒められてる?)  思い至ると、たちまち目端が熱を持つのが分かった。  ……どうしよう。嬉しすぎて顔がにやける。 「……気持ち悪」  それでも努めて通常通りに微笑んでいたつもりなのに、どうやら失敗していたらしい。  俺は誤魔化すように再度髪を掻き上げ、咳払いを一つして――それから結局破顔した。 「みんなっ、本当にありがとう!」  横から明日花の涙声が聞こえてくる。見れば下級生の一部も泣いていた。  それぞれの思い出話も何とか区切りがついたようで、そこで名残惜しくも解散となる。 「じゃあ、行こうか」  俺は改めて声をかける。  相変わらず静はうんとは言わない。  だけどノーとも言わなかった。 「何食べたい?」  念を押すようにかけたその言葉にも――そして、先に告げた〝あと二年〟という言葉に対しても。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加