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明け方、ふと目を覚ました俺は、半ば無意識に手を伸ばした。伸ばした腕を動かし、寝る前には隣にいたはずの存在を探す。
けれども、そこに触れる温もりはない。
「……静?」
緩慢に瞬き、軽く視線を巡らせる。やはりどこにもその姿はなかった。
「もう帰ったのか……」
いつかの誕生日のようだと苦笑する。
ややして沈黙が落ちると、眠りに就く前と変わらない雨音が微かに聞こえてきた。
(……今日も雨、か)
俺はごろりと仰向けになり、傍らのシーツの上へと片手を滑らせた。そこが既に冷え切っているのを確認してから、小さく息を吐いた。
* *
翌日のバイトは早番――朝8時から――だと言いつつ、静は昨夜、俺の誘いを断らなかった。
まぁ、確か早番だったと覚えていながら、声をかけた俺も俺だけど。
以前の俺なら、そんな誘い方はしなかったはずだ。翌日が早番であるなら、自然とまた別の日にしようと考えていたはず。
彼だって、翌日が早い時にははっきり「すみません」と断るのが常だった。
だけど現在はそうとも限らない。
俺はわりと好き勝手に誘うようになっているし、彼もまた、よほどのことがない限りそれを断らなくなっている。
そんなふうに変わったのは、あの日――俺が初めて彼を抱いた日から、数日が過ぎた頃。
翌週の卒業式まではかなり頑張って平静を装ってくれていたみたいだけれど、それ以降はもう、それまでの彼はどこにもいなくて――。
……挙げ句、昨夜みたいに肌を重ねることも珍しくなくなってしまった。
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