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ワインを口実に彼を誘い、それに乗った彼を抱く。
飲むことはともかく、身体の関係自体を彼の方から求めてくることはなかったけれど、かと言って仕掛ければはっきり拒まれることもなかった。
それでも俺たちは別に付き合っているわけでなく、この関係に名前をつけるとしたら、結局はセフレとしか言いようがない。セフレ兼、ちょっと親しい友人、または先輩後輩。
静も同じように思っているかどうかは正直分からないけれど、少なくとも〝あの日〟以来、「アンタとは寝たくない」と言われることはなかった。
……それって要するに、彼だって多少はこのままでいいと思っているってことだろう?
まぁ、このままでいいと言うか、もうどうでもいいと思っているのかもしれないけれど。
実際、どこか苦しそうに見えることもあるのだ。でも俺にそれを訊く権利はないから、気づかないふりをしている。
だって今でもこんなことならもっと早く、なんて思っているような俺だ。こうなったからには、もう引き下がるなんてできない。
……自覚はある。最低だ。
それでも俺は彼を傍に置いておきたかった。〝拒まれない〟と〝受け入れられる〟は同義でないと知りながら、彼をこの腕の中に閉じ込めたままでいたかった。
今までも、そしてこれからも――想いを伝えることはしないまま。
やがてくる期日を延ばす気もないくせに。
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