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院に進んでも、サークルに籍は置いていたため、必然とその活動日には静とも顔を合わせていた。今はそれ以外でもそこそこ一緒にいたりするから、回数だけで言えば以前よりずっとその機会は増えている。学校への登下校の際だって、最近では時間さえ合えば遠慮なく車に乗ってくれるようになっていた。
「――あ」
梅雨の晴れ間の7月6日。土曜日。
早番でバイトに入っていた静の終業を駐車場で待っていた俺は、店の出入り口から出てきた一組のカップルを目に留めた。
一人は横顔、もう一方は後ろ姿だけで、すぐに見えなくなってしまったけれど、俺には彼らが誰であるのかすぐに分かった。
年末に、アリアで静のことを話していた二人だ。
静の前のバイト先のスタッフと、その知り合い。まぁ、恐らくは恋人同士。
彼らのことを、静は〝常連さん〟と言ったけれど、俺としてはいまだ半信半疑でしかない相手。
だって彼らは静がアリアでバイトをしていることを知らなかった。
本当に常連だと言うなら、あの時にはすでに(使用期間を含めれば)半年以上勤めるに至っていた静のことを、一度くらいは見たことがある方が自然だろう。
静は基本はホール担当だし、定期的というよりはわりと不定期にシフトに入っている。そのせいか、俺でさえふらりと来店した時に何度も見かけていると言うのに(特に狙ってなくても)、彼らだけがそうならなかったというのはさすがに信じ難い。
というか、そもそも静の方こそ心底驚いていたように見えたのがその証拠ではないだろうか。
(常連、ではない……)
結局、俺はあれ以来その話に触れていない。
そのため絶対とは言えないけれど、やっぱりどう考えても彼らが〝単なる常連〟であるとは思えなかった。
……と、言うことは。
「何で静は嘘をついたのかな……」
ハンドルに交差するようにして置いた両腕の上に、軽く顎を乗せ、ぼんやりと彼らが消えた先を見つめたまま、俺はぽつりと呟いた。
そこに無意識に重ねたのは、深い溜息だった。
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