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コンコン。と、窓を叩く音にはっとする。
見ればそこには静が立っていて、俺は急くようにドアロックを解除した。
「お疲れさま」
すっかり慣れた様子で助手席へと乗り込んできた静に微笑みかけると、彼は頷くように小さく頭を下げつつ、はぁ、と一つ息をついた。
「忙しかったの?」
「……まぁ」
「そっか」
それもきっと嘘――いや、嘘ではないかもしれないけれど、それだけが理由でもないだろう。
だってさっきまで店には〝彼ら〟がいたんだから。そのことに対して気疲れでもしたに違いない。
「……ねぇ、静――」
「明日、休みになったんですよ」
思わず問いかけそうになった時、それを遮るように静が言った。
「別の日と、シフト代わってほしいって言われて」
「あぁ……そうなんだ」
静は俺を直視することなく、淡々とシートベルトを引き伸ばす。
けれども、カチャリ、とバックルがはまる音を響かせた後は、
「……あと……」
「あと?」
「ワイン……今年も送られて来てて……」
とたんに言い淀むような、ぶつぶつと独りごちるような小声になっていく。
「ワイン……?」
何とか聞き取ったそれを反芻するように呟くと、静は小さく頷いた。
まるで興味ないみたいに、一切俺の方は見ないまま――そのわりに目端が淡く染まって見えるのは気のせいだろうか。
(……ワインは、君にとっても口実なのかな)
元々、今日は夕食を外で一緒に、という約束しかしていなかった。その後の予定は決めていない。
だけど本当は俺も誘いたいと思っていた。思っていたけど、いつもみたいに気軽に口にできなかったのは、明日が7月7日だったから。
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