1.君と出会ったその意味は

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「見てたの?」 「出るに出られなくてどうしようかと思ってました」  彼は気怠げに髪を掻き上げながら、他人事のように言う。  確かに階上のカフェには、俺や彼女がいた辺りが見える(場所)がある。唯一の出入り口である外階段を使えば、下にいる俺たちにもその気配は伝わっただろう。  俺は僅かに肩を竦め、やがて隣を通り過ぎようとする彼に続いて歩き出した。 「今日は言われなかったんですか? 思い出にって」 「いや……」 「言われたのにしなかったんですか。珍しい……」  彼は俺を見ることなく、歩調を緩めるでもなく淡々と続ける。 「珍しいって……ここのところずっとしてないよ」 「ここのところ」 「だいたい、君が言ったんじゃないか。ここは日本ですよって」  思わず責任転嫁するように言うと、当然のように「俺は事実を言っただけです」と一蹴された。 「それはまぁ……そうだけど」  そう言われると返す言葉もない。  俺は苦笑しながら、見るともなしに彼の横顔を眺めた。  ()のフルネームは暮科静(くれしなせい)――二学年下の後輩だ。  俺が一年遅れで入学したから、学年は二つ違いだけれど、実年齢では三歳差。偶然にも英理と同い年だった。 (……綺麗な色だな)  秋晴れの下、吹き抜ける柔らかな風が、襟足長めの彼の髪を小さく揺らしている。マット系の茶髪は出会った時からずっと同じで、これからも変える気はないらしい。  すらりと長い手足に、180後半の俺に近い高身長。着痩せするのか、平均より細く見える体付きは、そのわりにしなやかで無駄がない。  ……ちなみにそんなこと(体付き)まで知っているのは、俺の入っている演劇サークルで彼が裏方をしているからで、特に深い意味はない。
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