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「俺、明日誕生日で……それで」
――知ってる。言われなくても知ってるよ。
それを覚えていたから、躊躇したんだ。
恋人でもない、単なる友人でもない関係で、当たり前みたいにそれを祝っていいのか迷ってしまって。
そういう面では、単なる友人の方が、ずっと気が楽だったかもしれない。
別に気にせず「おめでとう」って、「予定が空いてるなら祝わせて」って言えばいいだけのことなんだろうけど。
そう思いながらも、それが静にとっての誕生日だと思うと、こんな俺が貰っていいのかなとか……今更なことを考えたりもして。
でも、だからって、俺以外の誰かと過ごされるのは……。
「あ……別に、無理だったら――」
「いや。全然大丈夫。……っていうか、それなら、俺も一本出すよ」
うん。やっぱりそれは嫌だ。
それくらいなら、俺の傍に――例え不本意だったとしても、俺の隣にいてほしい。
「じゃあ、今年も俺の部屋で」
そんなふうに思う俺が、返せる言葉なんて他になかった。
* * *
外で夕食を済ませたあと、軽くつまみになるような物を買い、静の家にはワインだけ取りに寄って、そこから俺のマンションへと戻る。
去年はちゃんとシャワーを済ませ、部屋着に着替えてから来てくれた静だけど、今夜は俺が急かしたこともあり、バイト帰りの格好のままだった。
「ああ、やっぱりちょっと大きいね」
その静が今、身に着けているのは俺の服。
シャワーを浴びたいならと半ば無理矢理に貸したそれは、俺が普段家で着ている薄手のロンT――長袖は本人ご所望――と、淡いグレーのスウェットパンツ。
俺でさえ余裕のあるロンTのネックラインは元々広めで、静が着ると両方の鎖骨どころか、ともすれば一方の肩まで出てしまいそうになっている。それを時折直す指先も、長い袖に隠れ気味で――そのたび袖口を引き上げたりもしているけれど、結局すぐに落ちてきてしまうのがちょっと鬱陶しそうだった。
(……可愛い)
それでも黙って着ていてくれるのが妙に嬉しい。
……っていうか、正直その姿そのものが可愛くてたまらない。
俺は思わず破顔してしまいそうになるのを堪えながら、
「じゃあ、飲もうか」
大人しくソファに腰を下ろした静を横目に、ワインの栓を抜いた。
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