11.変わったのは

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「俺、明日誕生日で……それで」  ――知ってる。言われなくても知ってるよ。  それを覚えていたから、躊躇したんだ。  恋人でもない、単なる友人でもない関係で、当たり前みたいにそれを祝っていいのか迷ってしまって。  そういう面では、単なる友人(以前)の方が、ずっと気が楽だったかもしれない。  別に気にせず「おめでとう」って、「予定が空いてるなら祝わせて」って言えばいいだけのことなんだろうけど。  そう思いながらも、それが静にとっての誕生日(特別な日)だと思うと、こんな俺が貰っていいのかなとか……今更なことを考えたりもして。  でも、だからって、俺以外の誰かと過ごされるのは……。 「あ……別に、無理だったら――」 「いや。全然大丈夫。……っていうか、それなら、俺も一本出すよ」  うん。やっぱりそれは嫌だ。  それくらいなら、俺の傍に――例え不本意だったとしても、俺の隣にいてほしい。 「じゃあ、今年(今夜)も俺の部屋で」  そんなふうに思う俺が、返せる言葉なんて他になかった。  *  *  *  外で夕食を済ませたあと、軽くつまみになるような物を買い、静の家にはワインだけ取りに寄って、そこから俺のマンション(部屋)へと戻る。  去年はちゃんとシャワーを済ませ、部屋着に着替えてから来てくれた静だけど、今夜は俺が急かしたこともあり、バイト帰りの格好のままだった。 「ああ、やっぱりちょっと大きいね」  その静が今、身に着けているのは俺の服。  シャワーを浴びたいならと半ば無理矢理に貸したそれは、俺が普段家で着ている薄手のロンT――長袖は本人ご所望――と、淡いグレーのスウェットパンツ。  俺でさえ余裕のあるロンTのネックラインは元々広めで、静が着ると両方の鎖骨どころか、ともすれば一方の肩まで出てしまいそうになっている。それを時折直す指先も、長い袖に隠れ気味で――そのたび袖口を引き上げたりもしているけれど、結局すぐに落ちてきてしまうのがちょっと鬱陶しそうだった。 (……可愛い)  それでも黙って着ていてくれるのが妙に嬉しい。  ……っていうか、正直その姿そのものが可愛くてたまらない。  俺は思わず破顔してしまいそうになるのを堪えながら、 「じゃあ、飲もうか」  大人しくソファに腰を下ろした静を横目に、ワインの栓を抜いた。
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