11.変わったのは

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 *  * 「ねぇ、静」 「……何ですか」  いつの間にかソファからラグの上に下りていた静は、ローテーブルの上で気怠げに頬杖を突いたまま、緩慢に瞬いた。  他方の手に持つグラスを小さく揺らしながら、どことない中空を見つめていた双眸がゆるりと俺を一瞥する。その目端はじわりと赤く染まり、眼差しはとろんとしてひどく眠たそうにも見えた。 「……何だよ?」  静は再び前方に目線を戻し、少しばかり焦れたように言った。  傍らに腰を下ろした俺は、そんな彼の横顔を眺めながら、僅かに頷く。 「年末にね」 「年末?」 「うん。年末……の、俺が行った日のことなんだけど」 「……随分前の話だな」 「あぁ、まぁ、そうなんだけど。……でも、実はずっと気になってて。あの時、俺のすぐ後に来た二人……あれは、誰だったのかなって」 「……誰って……。…………誰だよ」  知らないとばかりに言いながらも、静の目がぴくりと細められたのは、何か思い当たる節があったからだろう。  俺は小さく息をつき、自分のグラスから一口ワインを嚥下してから、話を続けた。 「君が常連だって言ってた二人組だよ」 「……覚えてない」 「本当に?」 「常連なんていっぱいいるから」  静は誤魔化すようにグラスを呷った。  そのまま白を切り通すつもりなのかもしれない。 「今日も来てた二人だよ。君が出てくる直前に帰って行った……もしかして、あれから本当に常連になったの?」  だけど今夜は俺も退かなかった。 「ねぇ、静。――祐ちゃんって誰?」  静かにそう重ねると、その瞬間、静の動きがぴたりと止まった。 「……何でアンタがその名前…………」  ややして、彼は呟いた。 「たまたま聞こえたんだよ。隣の席だったから」  俺は苦笑気味に答えた。  その言葉に、静は「だからあの並び……」と忌々しげにこぼしていたけれど、結局は観念したみたいに息をついた。 「〝彼〟はさ……もっと前からの知り合いだよね?」  あの時の――あの男の顔を思い浮かべながら、俺は改めて静の顔を注視する。  ……そう、俺が本当に知りたかったのは、祐ちゃん(あの男)の方だ。  女の子の方は大体想像がついていたけど、彼の方はまるで分からなかったから。
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