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あの祐ちゃんとかいう男――静のことはよく知ってるみたいな言い方をしていたけど、実際静と対面しているのを見ると、何かちょっと嫌な感じがしたんだよね……。
直接会話を聞いたわけではないけれど、その後の静の様子からしても……やっぱりどこか釈然としなかったし。
「あの男に……何か弱みでも握られてる、とか……? あっ……もしかして、一緒にいた彼女……のことで、何かトラブルでも――」
気がつくと、グラスを持つ手に力が入っていた。身体も幾分前のめりになり、自分が思う以上に彼を凝視していたらしい。かち合った静の瞳が僅かに見開かれたのを見て、少しだけ我に返る。我に返ったからと言って、何も取り下げることはできないんだけど。
静はそのまましばらく沈黙し、それから不意に視線を落とした。かと思うと、小さく肩を揺らし始め、
「何を言い出すのかと思えば……」
「何って……」
「全っ然、違ぇし」
思わず背筋を伸ばした俺に、堪え笑いから一転、噴き出すように破顔した。
今度は俺が目を瞠る番だった。
「静?」
「――お代わり」
一頻り笑った後、静は残り僅かとなっていたグラスの中身を飲み干し、空にしたそれを俺の方へと差し出してきた。
言われた通りにワインを注ぐと、早速それを一口飲んでから、ようやくその答えを教えてくれた。
「あの人は、祐也さんって言って……高校ん時の、一つ上の先輩で」
(高校の……)
「で、俺が前に付き合ってた相手――です」
(高校の、先輩……。――って)
「えっ……えぇ!?」
以前彼の口から聞いた覚えのある、〝高校の先輩〟と言う言葉。それにちょっとひっかかっている間に、まるで他人事みたいにさらりと告げられ、俺は思わず声を上げた。
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