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ゆっくりと頬を伝い落ちていく一筋の雫。そんな俺の顔を見て、静が呆れたみたいに破顔する。灰皿に煙草を置いたその指が、今度は俺の頬を掠めるように撫でた。
「ほんと……ばかじゃねぇの」
「君がそんな顔して笑うからだよ」
平板なものに戻ってしまった静の口調。倣うように俺も淡々と返した。
……その手をそっと掴みながら。
* *
結局、祐也には、高校の時――三年生の時にも、付き合っている女の子が別にいたらしい。
……という事実を静が知ったのは、あの日ではなく今日のこと。
来店した二人が話していた過去の恋愛話を、聞くつもりもなく聞いてしまったのだと静は苦笑した。
だけど俺からすると、それもある意味牽制だったのではないかとも思えてしまう。わざと聞こえるように話していたというか。
何となく、あの男ならやりそうな気がしたのだ。だってそもそも、現行の彼女とのデート場所に、あえて静の店を選ぶ必要なんてないんだから。
「そんなのもう、笑うしかねぇだろ」
あの後、まるでどうでもいいみたいに続きを教えてくれた静は、それでもどこか懐かしいみたいに笑っていた。
そのたび、俺の方が泣きたいような気持ちになるとも知らないで。
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