11.変わったのは

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「にしても……」  寝室を後にした俺は、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを手に、リビングのソファに腰を下ろした。  傍らのテーブルの上には、空になったワインの瓶や飲みかけのグラス、軽食(スナック)などが残されたままだ。その隣には、見慣れた煙草とガラスの灰皿。  それらに一切手を付けることなく、俺はぼんやりと窓越しの夜景を眺めながら、改めて思った。  ……俺にできることはないのだろうかと。  祐也(あの男)に関して、二股だとか、実は遊びだったとか、そういうのには正直そこまで驚かなかった。  もともと彼に対して不信感を抱いていたからだろうか。むしろ「ああ、やっぱり」という感想の方が大きかった。  ただそれを、今更静が知る必要はなかったはずなのだ。  静が永遠に知らないままでも、あの男が困るようなことは何も起こらなかっただろう。いちいち牽制(口止め)しなくても、静が不用意なことを口にしない性格なのは、一年も付き合っていた――と言えるような関係だった――なら当然、彼だって知っていただろうに。  カムアウトに関してだってそうだ。今になってわざわざ静の気持ちを試すような真似をするなんて、冗談にしてはたちが悪い。  おかげで静は余計な傷を追い、挙げ句、その傷口を悪戯に抉られただけじゃないか。  これからもあの男は店に来るかもしれない。でもそれを静には止められないだろう。  かと言って、俺も安易には動けない。それを静が望まない限り――というか、多分それは静が許さない。 (まぁ、それで静の口が軽いとか、変に泣きついたとか思われるのも癪だしね……)  本当は、今すぐにでも「もう関わらないでやってくれ」って――いや、「君が思うほど、静はもう君のことを想っていないよ」って言ってやりたいところだけれど。  思うだけで、結局何もできない自分がもどかしい。
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