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俺は持っていたペットボトルを数口呷ると、自嘲めいた溜息と共に視線を落とす。そのまま目を閉じると、また別の静の言葉が頭に浮かんだ。
あれほど酔っていた中でのことだ。彼はきっと覚えていないだろう。だけど俺の中にははっきり残っている。
途中、口づけるかのように顔を寄せた時、それを拒むように静が言ったのだ。
〝俺もしばらく恋愛するつもりはないから〟
〝だからちょうどいいだろ〟
って。
俺は初めて肌を重ねた夜以降、一度も静にキスしていない。
だけどそれで正解だとも思っている。
だからその時もそのつもりだったわけじゃないけど、それでもその反応にはちょっと胸が痛くなった。
……まるでアンタにできることなんて何もないって言われたみたいで。
「――あ」
不意に時計に目を遣ると、いつの間にか時刻はとっくに0時を過ぎていた。
(……今日で良かった)
些細なことかもしれないけれど、今は素直にそう思う。
こんな俺が言うのもなんだけど、せめて今日くらいは幸せな日にできれば俺も嬉しい。
君が忘れたいなら、覚えていないなら、俺も知らないふりをするから。
目が覚めたら、これだけは言わせてほしい。
――誕生日、おめでとうって。
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