12.最初で最後の

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 *  *  外に出ると、相変わらずの冷たい空気が一気に身体を包み込んだ。  吐く息が白く霞んで消える。手早く袖を通しただけだったコートの合わせを軽く引き寄せながら、俺は足早に駐車場へと向かった。  建物の側面――中でも裏手に差し掛かろうというその辺りは、店の入り口からは完全に死角となっている。その壁際に、ぽつんと佇む人影があった。 「知り合いなんですか? 静くんと。――あなたみたいな人が」  思いがけず、その〝人影〟から声をかけられる。  反射的に振り返ると、そこに立っていたのは見覚えのある一人の男だった。 「……あなたみたいな人ってどういう意味かな」  静より背が低く、線も細い。中世的な顔立ちをしたその青年は、あれほど見かけないと思っていた〝祐也〟()だった。  俺は足を止め、風に乱された長髪を緩く掻き上げ、押さえるようにしながら僅かに目を細めた。  淡く染まった(まなじり)に、どこか血の気の引いた唇。腕を組むようにしながら、時折二の腕を摩るようにしている様子からも、ついさっきまで店内や、車の中にいたというわけではなさそうに見えた。  ……どういうことだろう。  状況も、そして先ほど言われた言葉の意味も測りかね、俺はそのまま彼の顔をじっと見つめた。  すると今度は彼の方が視線を逸らし、深い溜息をついた。白い吐息が風下へと流れる。 「……あなたの(同じ)大学にいる知り合いから聞きました」 「何を?」 「あなた、その辺にいる一般人とは違うらしいですね」 「何が言いたいのか分からないな」 「っていうか、見るからにそうですもんね。僕たちとは住む世界が違うって言うか」 「……それはどうも」  以前抱いた印象とは違い、妙に遠回しな言い方だ。  だが言いたいことは何となく分かり、俺はひとまずそれを受け取った。ある意味素直に認める形で。  今は一般人だよ、とか。君の言う僕たちっていうのは誰のことなの? とか。言い返したいことがないわけではなかったけれど、そこにはあえて触れずにおいた。  ……別に今更無関係の相手(この男)が俺のことをどう思おうが、知ったことじゃないしね。  そんな俺の反応に、彼はどこか呆れたふうに、それでいて悔しそうにも聞こえる声音で言葉を継いだ。 「……まぁ、静くん従順だし。遊び相手にはちょうどいいですよね」
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