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外に出ると、相変わらずの冷たい空気が一気に身体を包み込んだ。
吐く息が白く霞んで消える。手早く袖を通しただけだったコートの合わせを軽く引き寄せながら、俺は足早に駐車場へと向かった。
建物の側面――中でも裏手に差し掛かろうというその辺りは、店の入り口からは完全に死角となっている。その壁際に、ぽつんと佇む人影があった。
「知り合いなんですか? 静くんと。――あなたみたいな人が」
思いがけず、その〝人影〟から声をかけられる。
反射的に振り返ると、そこに立っていたのは見覚えのある一人の男だった。
「……あなたみたいな人ってどういう意味かな」
静より背が低く、線も細い。中世的な顔立ちをしたその青年は、あれほど見かけないと思っていた〝祐也〟だった。
俺は足を止め、風に乱された長髪を緩く掻き上げ、押さえるようにしながら僅かに目を細めた。
淡く染まった眦に、どこか血の気の引いた唇。腕を組むようにしながら、時折二の腕を摩るようにしている様子からも、ついさっきまで店内や、車の中にいたというわけではなさそうに見えた。
……どういうことだろう。
状況も、そして先ほど言われた言葉の意味も測りかね、俺はそのまま彼の顔をじっと見つめた。
すると今度は彼の方が視線を逸らし、深い溜息をついた。白い吐息が風下へと流れる。
「……あなたの大学にいる知り合いから聞きました」
「何を?」
「あなた、その辺にいる一般人とは違うらしいですね」
「何が言いたいのか分からないな」
「っていうか、見るからにそうですもんね。僕たちとは住む世界が違うって言うか」
「……それはどうも」
以前抱いた印象とは違い、妙に遠回しな言い方だ。
だが言いたいことは何となく分かり、俺はひとまずそれを受け取った。ある意味素直に認める形で。
今は一般人だよ、とか。君の言う僕たちっていうのは誰のことなの? とか。言い返したいことがないわけではなかったけれど、そこにはあえて触れずにおいた。
……別に今更無関係の相手が俺のことをどう思おうが、知ったことじゃないしね。
そんな俺の反応に、彼はどこか呆れたふうに、それでいて悔しそうにも聞こえる声音で言葉を継いだ。
「……まぁ、静くん従順だし。遊び相手にはちょうどいいですよね」
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