12.最初で最後の

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(にしても……歯痒いなぁ)  通り慣れた自宅までの道を走り出してからも、溜息は止まらなかった。  本当はもっと言ってやりたかった。  君と静はもうとっくに終わってるんだろって。  ああ、そもそも君の中では始まってもいなかったんだっけって。  俺はちゃんと大事にするよ。  言わなくていいことまで言って、不用意に傷つけたりはしない。――君とは違うから。  ……なんて、思っても言えないから余計にもどかしくなるんだろうな。  もともと静が俺に嘘をつき通そうとしたのは、恐らくは俺に何もしてほしくないからだ。  実際、その想像だけでも十分抑止力になっている。  だけど、今回俺が思い知ったのはそれだけじゃなかった。 「……痛い……」  思い返すと、無意識にそう漏らしてしまうほどに心が軋む。その原因は、 「ほんと、情けない……」  祐也()の〝あの言葉〟を、否定できなかった自分にあった。 「遊び相手……か」  あの男にそう言われた時、俺はすぐに「違う」と言えなかった。それどころか、結果言われるままにしてしまったのだ。端から見れば肯定したも同じだろう。  決して遊びだと思っているわけじゃないのに……それは本心なのに、じゃあなんだと言われたら何も言えない。それが分かっていたから、俺はあんな応え方しかできなかった。  そんな自分が、あの瞬間(あれ)からずっと腹立たしくて、許せなくて、そのくせどうにもできないのが情けなくて堪らなかった。 「……まぁでも、それは自業自得か」  呟くと、思わず自嘲めいた笑みが滲んだ。  視界の端で、窓ガラスに映る自分が同じ表情(かお)をしていた。その姿を見て、俺はまた苦笑(わら)った。 「こんな顔、静には見せられないな」  独りごちて、まもなくたどり着いたマンションの駐車場へと車を入れる。  俺は僅かに背筋を伸ばした。  ……この思いはきっと簡単には消えてくれない。  だけど今更弁解もできないとなれば、ここはもう無理にでも折り合いをつけるしかないのだろう。  自分でちゃんと折り合いを付けて、気持ちを切り替え、静の元に戻る。  俺は自分に言い聞かせるように頷いた。 (――うん)  やっぱり〝いま〟はそれしかない。
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