198人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
(にしても……歯痒いなぁ)
通り慣れた自宅までの道を走り出してからも、溜息は止まらなかった。
本当はもっと言ってやりたかった。
君と静はもうとっくに終わってるんだろって。
ああ、そもそも君の中では始まってもいなかったんだっけって。
俺はちゃんと大事にするよ。
言わなくていいことまで言って、不用意に傷つけたりはしない。――君とは違うから。
……なんて、思っても言えないから余計にもどかしくなるんだろうな。
もともと静が俺に嘘をつき通そうとしたのは、恐らくは俺に何もしてほしくないからだ。
実際、その想像だけでも十分抑止力になっている。
だけど、今回俺が思い知ったのはそれだけじゃなかった。
「……痛い……」
思い返すと、無意識にそう漏らしてしまうほどに心が軋む。その原因は、
「ほんと、情けない……」
祐也の〝あの言葉〟を、否定できなかった自分にあった。
「遊び相手……か」
あの男にそう言われた時、俺はすぐに「違う」と言えなかった。それどころか、結果言われるままにしてしまったのだ。端から見れば肯定したも同じだろう。
決して遊びだと思っているわけじゃないのに……それは本心なのに、じゃあなんだと言われたら何も言えない。それが分かっていたから、俺はあんな応え方しかできなかった。
そんな自分が、あの瞬間からずっと腹立たしくて、許せなくて、そのくせどうにもできないのが情けなくて堪らなかった。
「……まぁでも、それは自業自得か」
呟くと、思わず自嘲めいた笑みが滲んだ。
視界の端で、窓ガラスに映る自分が同じ表情をしていた。その姿を見て、俺はまた苦笑った。
「こんな顔、静には見せられないな」
独りごちて、まもなくたどり着いたマンションの駐車場へと車を入れる。
俺は僅かに背筋を伸ばした。
……この思いはきっと簡単には消えてくれない。
だけど今更弁解もできないとなれば、ここはもう無理にでも折り合いをつけるしかないのだろう。
自分でちゃんと折り合いを付けて、気持ちを切り替え、静の元に戻る。
俺は自分に言い聞かせるように頷いた。
(――うん)
やっぱり〝いま〟はそれしかない。
最初のコメントを投稿しよう!