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静の姿が一旦ホールから消えると、俺は他方の手でそっとカップを持ち上げた。温かなそれを一口飲むと、胸の奥までじわりと温かくなっていく心地がする。
外がとても寒いから、少しでも早く飲ませてくれようとしたのだろうか。
そうだったらとても嬉しいし、それだけですごく幸せだ。
祐也のことで生じたもやもやは消えてはいないけれど、今ならそれにも目を瞑れる気がした。なかったことにはできなくても、俺と静との〝いま〟で塗り潰してしまえばいいのだ。
(――さて、何時までいようかな)
俺は煙草の箱を揺すり、抜き出した一本を軽く机で叩いた。それを口に添えながら、店の壁面を飾るアンティークな時計で時刻を確認する。
今はまだ16時半を過ぎたところで、本日の静のバイトは22時まで。
元々夕飯は済ませるつもりだから、最低でも20時程度まではいることになるだろう。
(食べてからだと、2時間程度か)
それくらいなら、いっそ……。
幸いというか、持参した仕事もすぐには終わりそうにないし。
(静の嫌がる顔が浮かぶけど……)
思いながらも、俺の心はもう決まっていた。
……ああ、もちろん相応のオーダーはするよ?
自然と滲んでしまう笑みをそのままに、俺は煙草に火を点ける。
そのかたわら、静の置いていった水のグラスと、コーヒーカップを交互に眺めた。
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