12.最初で最後の

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 静の姿が一旦ホールから消えると、俺は他方の手でそっとカップを持ち上げた。温かなそれを一口飲むと、胸の奥までじわりと温かくなっていく心地がする。  外がとても寒いから、少しでも早く飲ませてくれようとしたのだろうか。  そうだったらとても嬉しいし、それだけですごく幸せだ。  祐也(あの男)のことで生じたもやもやは消えてはいないけれど、今ならそれにも目を瞑れる気がした。なかったことにはできなくても、俺と静との〝いま〟で塗り潰してしまえばいいのだ。 (――さて、何時までいようかな)  俺は煙草の箱を揺すり、抜き出した一本を軽く机で叩いた。それを口に添えながら、店の壁面を飾るアンティークな時計で時刻を確認する。  今はまだ16時半を過ぎたところで、本日の静のバイトは22時まで。  元々夕飯は済ませるつもりだから、最低でも20時程度まではいることになるだろう。 (食べてからだと、2時間程度か)  それくらいなら、いっそ……。  幸いというか、持参した仕事もすぐには終わりそうにないし。 (静の嫌がる顔が浮かぶけど……)  思いながらも、俺の心はもう決まっていた。  ……ああ、もちろん相応のオーダーはするよ?  自然と滲んでしまう笑みをそのままに、俺は煙草に火を点ける。  そのかたわら、静の置いていった水のグラスと、コーヒーカップを交互に眺めた。
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