12.最初で最後の

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 *  *  * (ちゃんと言えたらいいんだけど……)  店を出た後、俺は静に黙って車の中で待っていた。  その時止めていた場所が、ぎりぎり裏口から出入りするスタッフの姿を確認できる位置だったのもちょうど良かった。  待っていたのは、せっかくだし一緒に帰ろうと思ったから。そして何より、一つ言いたいことがあったからだ。 「――あ」  ややして姿を現した静は、寒そうに身を竦めながらまっすぐ自宅の方へと足を向けた。  俺は急くように窓を開けた。けれども、そうして俺が引き留めるより先に、静は不意に動きを止める。 (……電話か)  視線の先で、静は黒いダウンジャケットのポケットを探り、取り出した携帯を上に向けた。画面が継続して光っている。 「俺じゃないよ?」  静の頭の中を勝手に想像し、揶揄めかして独りごちる。  ……まぁいい。声をかけるのは通話が終わってからにしよう。  そんな自分に苦笑しながら、俺はひとまずそのまま待機――しようと思ったんだけど、 (――出ないんだ)  静はただそれを束の間見つめただけで、再びポケットに戻してしまった。  非通知だったんだろうか。それとも知らない番号?  思いながらも、どのみち身体が空いたならと、俺は今度こそ彼に向かって声をかけた。 「せーい」  些か気の抜けた声で名を呼ぶと、静は予想以上に驚いた様子でこちらを振り返った。  *  * 「アンタって、そんな暇なの?」  あくまでも寒かったから、とばかりに助手席に乗り込んできた静の口調は相変わらずだ。  けれども、その表情は妙にほっとしているようにも見え、先刻の反応も相俟って少しばかり気になってしまう。  原因はさっきの電話だろうか。  続けてかかってきてはいないようだけど、もしかしたら何かトラブルとか――?  アリアの敷地を出たところで、思わず口を開きかけたら、 「帰る前にちょっとコンビニ寄ってよ」  まるでそれを阻むみたいにお願い――というか、決定事項のように言い切られてしまった。
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