12.最初で最後の

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「ホットコーヒーでいいんだよね? 買ってくるからここで待ってて」  アリアから静のアパートまでの間にコンビニはない。  そのため立ち寄ろうとすると、一旦そこを通り過ぎるか、少しだけ遠回りする道を選ぶことになる。  そしてその日、俺が選んだのは後者だった。 「え……一人でできるんですか? セルフですよ」 「待って。俺には無理だって言いたいの?」  駐車場の端に車を止めた俺は、店の入り口の方を一瞥し、意外そうな顔をする静に「見てなよ」と残して店内へ。  まぁ、確かに静ほど慣れてはいないけど、だからってそつなく購入することくらいはできるからね。コーヒーくらい。  思いながら、俺はレジにて同じ物を二つ購入し、空のカップを手にコーヒーマシンの元へと向かう。  なのにそんな時に限って前の客がボタンを押し間違えちゃうとかね。もう一方のマシンはメンテナンス中になってるし。 (慣れないことはするもんじゃないってことかな……)  自嘲気味に嘆息しながら、ガラス越しの外へと視線を投げる。幸か不幸か、ここから俺の車は見えない。見えないけれど、車で待つ静の表情は容易に想像できた。  だって明らかに時間がかかっている。普段静が買う時と比べても、既に倍以上の時間が経っているのではないだろうか。  そろそろ溜息くらいはついているに違いない。やっぱりな、なんて呆れながら――。  だけど今夜は、どうしても譲れなかったのだ。  もともとただ家に送るだけでは足りないと思っていたからか、ついここぞとばかりに任せて欲しいだなんて気になってしまった。  君が先刻俺にくれた、さりげない気遣い(優しさ)が本当に嬉しかったから。できれば俺も、君に何か返したいって――少しでも君を、君の心を温かくしてあげられたらいいなって思っていたからかもしれない。  ……まぁ、それにしては我ながら下手な(ひどい)立ち回りだったと思うけどね。 (はぁ……まぁいいや)  結果的に、俺の柄にもない緊張感をほぐすのにもちょうど良かったし……。後は落ち着いた頃、ちゃんと彼に伝えられればいい。 (24日……空いてるといいな)  ようやく空いたマシンを慎重に操作しながら、俺は心の中で密やかに祈った。
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