12.最初で最後の

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(でも……静の番号……自分で教えるとは思えないし)  俺は認めたくないように緩く首を振る。  だけど俺は、今日その〝彼〟に会っている。会っているどころか、ある意味けんかまで売られてしまい、しかもそのけんかを俺は買った。……も同然だと思っている。  ……となければ、その可能性も低くはない気もした。  青信号に変わり、俺は静かにアクセルを踏む。  静のアパートまではもう5分とかからない。 「着いたよ」  いつもの路肩に車を止めると、俺は静の方を見ることなく声をかけた。  窓ガラスに映る静は口元に寄せていたコーヒーをひとくち嚥下して、「どうも」と小さく頭を下げた。 「……じゃあ…………」  まもなく静の手がドアにかかる。けれどもそれは(ひら)かない。  当然だ。だってドアは施錠されたままだから。  いつかのように、俺が開け忘れたわけじゃない。今夜のそれはわざとだった。 「え……いや、鍵……」  静が促すように俺を見る。  それでも俺は応じない。――応じないどころか、 「ねぇ、静」  俺はハンドルに手を添え、前方を見据えたまま淡々と話を変えた。 「さっきの電話、誰?」  あれほど言えないと思っていた言葉が、するりと()になった。 「……は?」 「だから、さっきコンビニで話してた相手だよ」  そのことに俺が気付いているとは思っていなかったのだろう。静はひどく驚いた様子で、微かに唇を震わせた。 「……別にアンタに関係ないだろ」  静は顔を背け、吐き捨てるように呟いた。  そのかたわら、解錠を急かすようにドアに何度も触れる。「早く開けろよ」と、繰り返される心の声が聞こえるようだった。 「――祐也じゃないの」  構わず俺は静かに告げた。  静の肩がぴくりと揺れる。その反応に、今度こそはっきり確信した。 「ねぇ、静」  動揺の色を見せる静とは裏腹に、自分でも意外なほど冷えた声が出た。 「ちょっとドライブしようか」
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