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クリスマスに向けたイルミネーションを横目にしばらく車を走らせる。
その間何度か「教えてよ」と言ってみたけれど、静は頑なに口を開かなかった。
――本当は君のことなら全部知りたい。
だけどそれは無理だと分かっているから、せめて目の前のことだけでも教えてほしい。
知りたい。
知りたい。
できれば知って上書きしたい。
今更君の気持ちを掻き乱す存在なんていらない。今更君の感情を揺さぶる存在なんて邪魔でしかない。
心は求めていなくても、俺はまだ君を離したくない。
例え君がそう望まなくても、いまは無理矢理にでもその全てを俺で塗り潰してしまいたいんだ。
――だけど、君がそうさせてくれないから。
「ちょ……」
静が信じ難いような声を漏らす。
俺は暗がりの駐車場に車を滑り込ませると、無言のまま外からドアを開け、静の身体を外へと引っ張り出した。
静の手から、パシャリと音を立ててコーヒーのカップが落ちる。コンクリートの地面に、飲み口からこぼれた黒い液体がゆっくりと染みを広げていく。
それを尻目に、俺は静の腕を掴んだまま、引きずるようにして人気のない入り口へと向かった。
自動ドアをくぐると、迷うことなく適当な空き部屋を選ぶ。次にはエレベーターの箱の中へと彼の身体を押し込んで、目的の階床ボタンを押した。
「アンタ、いったい何考えて――」
「何って、分からないかな」
部屋に入るまで声を上げなかったのは、彼なりに配慮した結果だろうか。
ばかだな。そういう気遣いばかりしてるから、俺みたいなのにつけ込まれるんだよ。
「……っ!」
なおも離していなかった手を引いて、俺はそのまま彼の身体をベッドの上へと引き倒す。
すぐさま起き上がろうとする静の肩を押し返し、覆い被さるようにしてその身を組み敷くと、
「――ここはラブホテルだよ」
呆然と見上げてくる彼の眼差しを受け止めながら、俺はあえて柔らかく微笑んだ。
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