*13.君を欲してはいけない

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 *  *  30分ほど経った頃だろうか。気怠げに瞼を上げた静は、そのまま「シャワー浴びてくる」とだけ呟き、ベッドを降りた。  一応俺が一通り清めて、服もちゃんと着せていたのだけれど、それだけではやはり不十分だったらしい。  いつもに比べて短時間の情事だったにもかかわらず、やけに疲弊した様子で、静は浴室へと足を向けた。  先に身支度を整えていた俺は、そのすぐ近くにある小ぶりのソファに座っていた。正面にはガラスのローテーブルが置いてあり、その上には静のジャケットと携帯が乗っている。俺が拾ってそうしたのだ。  けれども、そのすぐ横を通ったのに、静はそれを一瞥することもなく、ただ乱れた髪をぞんざいに掻き上げながら、まっすぐ浴室へと消えただけだった。  気がついていないのか、気にする余裕がなかったのかは分からない。あるいは分かっていてあえて見ないようにしたのかもしれない。  だってそれを見てしまったら、嫌でも俺が視界に入るから。 (……さすがに嫌われたかな)  ややして聞こえてきたのは微かな水音。自然とそこで彼が何をしているのかを想像してしまい、そんな自分にますます呆れる。  ……とは言え、静だって待てとは言っても、嫌だとは一度も言わなかったからね。  …………なんて。 「いや、ほんと最低だな、俺」  自嘲気味に独りごちると、俺は持っていた煙草を深く吸い込み、何度目かの細く長い紫煙を吐き出した。  ――それにしても、どうして俺はこんなことをしてしまったんだろう。  冷静になって考えてみると、別に静に非があったわけじゃなし、ここまでする必要はなかったのではないかと心が痛む。  ただ静と身体を重ねたいだけなら、いつも通りの手順さえ踏めばこんな後味の悪い思いをすることもなかったのに。  静が誰と話そうが、確かに俺には関係ないのだ。そのことを――その内容を、俺に言う義務はない。  そう頭では分かっているはずなのに、どこか釈然としなかった。  自嘲してばかりのくせに、今夜の自分の行動にさほどの後悔がないのもそのせいだろう。
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