14.もう一度だけ

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 部室の窓から望める景色に目を細める。学校自体が小高い丘の上にあるおかげで、眼下に広がる街並みは案外絶景だ。  窓から吹き込む、澄んだ空気越しに見えるのは煌びやかなイルミネーション。それに負けないくらい星の瞬く冬の夜空が頭上に広がっている。  ……クリスマスを数日後に控えたその日、俺は誰もいなくなった部室で、一人煙草を吹かしていた。  年内最後のサークル活動日。  なのに今月――特に今週は修士論文の方に時間を取られ、思うように顔を出せなかった。挙句、今日も終わり際になってしか参加できず、それもあって、活動納めである本日の鍵当番は、ぜひともやらせて欲しいと自ら願い出た。  なんだかんだ言って最後の年だし……6年近くもお世話になった部室を、自分なりにもう少し綺麗にしておきたいと思ったからだ。  そうして一通りの片付けを済ませた俺は、まるで物思いに耽るよう、すっかり日の落ちた窓外の景色を眺めていた。  いつだったか静と一緒に、ここから眺めた花火を思い出しながら。 「なぁ……ちょっと」  そこに溜息混じりの声が届く。続いて、入り口近くの壁をコンコンと叩かれた。  目を向けると、開け放たれたままのドアの傍に静が立っていた。彼は窓からドアへと吹き抜ける風に身を竦めながら、半ば諦めたような眼差しで俺を見ていた。 「あぁ、ごめん」  視線が絡むと、次には逃げるみたいに逸らされる。  静は室内に踏み入ると、無言のまま持っていた数冊の冊子をテーブルの上に置いた。 「年明けに読み合わせするからって。……部長が」  それから静は、そのうちの一冊を取り上げ、俺へと差し出してくる。「ありがとう」とそれを俺が受け取れば、すぐさま残りの本を持って棚の前へ。空いていた場所にそれを差し入れる姿も、もうすっかり見慣れたものだった。
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