14.もう一度だけ

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 ……とはいえ、あの日以来、俺は静を抱いていない。  あれから三週間足らずの間、接点と言えば学校への送迎、良くてもランチ程度で、そうでなくともお互い卒業に向けて多忙な時期だ。結果としてなかなか予定が合わず、軽く外で飲むだけの機会すらろくに持てていなかった。  だからだろうか。  柄にもなく緊張している気がするのは……。 「あ……それとも、やっぱり卒論で忙しいかな……?」  問いを重ねても、静は依然としてこちらを見ない。見ないまま、逡巡するような間を置いて、それから吐息混じりに答えた。 「いえ……卒論はまぁ、大丈夫ですけど」 「じゃあ、夕飯でも一緒にどうかな?」 「……いいですよ」  静は小さく頷いた。  それを聞いて、俺は急くように煙草の火を消した。  *  *  *  向かった先は、今までにも何度か一緒に訪れたことのある、バーのような雰囲気を持つ居酒屋だった。  暗めに保たれた明度に、控えめに流れるジャズピアノのBGM。  酒も料理も種類があり、値段の割りに味もいい。そのせいで若い客も多く、静かすぎないのもある意味ちょうど良かった。 「遠慮しなくていいからね」  まもなく運ばれてきたのは生ビールとノンアルコールワイン。  俺は運転があるので飲めないが、静は好きに飲んでくれたらいい。そう思って一応声をかけると、 「……何?」  何だかかえって不審げな目で見られてしまった。  今の言い方……そんなにわざとらしく聞こえただろうか。……だとしたらちょっと恥ずかしいな。 「別に今更遠慮なんてしませんよ」 「いや、まぁそうかもしれないけど……一応ね。久々だし」  俺は誤魔化すように微笑み返す。  すると静はあからさまな溜息を漏らし、そのくせどこか面映ゆいように視線を俯けた。
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