14.もう一度だけ

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「飲みますよ、普通に」  なんだか拗ねたみたいなその言いようがちょっと可愛い。  でも何でそこで拗ねる(?)の……?  思わず瞬くと、視線の先で静の手がグラスに触れた。釣られるように、俺も自分のワイングラスを取り上げる。 (…………まぁいいか)  実際、遠慮しないでくれるなら。  特に機嫌が悪いわけじゃなさそうだし……。  ……っていうか、むしろいい……ようにも見えるような……? 「――じゃあ、乾杯」  俺は改めて笑みを深めると、静のグラスに自分のそれを軽くぶつけた。広いとは言えない個室に、澄んだガラスの音が響いた。  *  *  俺が食事に誘った目的は、早い話が24日の予定を聞くためだった。  予定を聞いて、一緒に過ごせないかと誘うため。  だけどもう、当日まではもう数日しかない。  そうするには遅すぎる時期だった。  24も25も、既に予定が入っているかもしれない。仮に予定がなかったとしても、それならそれでバイトを入れているだろう。  そしてそのバイトのシフトも……とっくに決まっているはずだ。  一言「無理」と言われる未来が見える。  それが何度も頭を掠めて、俺の言葉を封じ込めた。  ――正真正銘、今年が最後のクリスマス。  できることなら――いや、本音では是が非でも一緒に過ごしたい。その特別な時間を静と共有したい。  ……思いながらも、結局店では最後まで言い出すことができなかった。  しかも帰りの車の中で、静は予想外にも眠りに落ちてしまう。ワインを飲んだわけじゃない。理由は恐らく、単なる寝不足だ。  今夜話した内容からも、俺が思うより卒論に時間を取られているらしいのが分かった。静はなかなか言わないけれど、今日だって本当は最初から疲れを感じていたのかもしれない。 (それならそうと言ってくれれば……)  ――いや。  言われても引けなかったかもしれないな。  自分勝手な俺のことだから。
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