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(……少しだけ、寄り道してもいいかな)
静のアパートまではそう距離もない。
このまま走れば10分ほどで着いてしまう。
思い立った俺は、赤信号で停止すると同時に、助手席で眠る静の様子を窺った。
ドアにもたれるようにして眠っている静の寝顔を、ガラス越しに確認する。
大丈夫、起きそうにない。これならきっと気付かれることもないだろう。
……ごめんね。だって俺はまだ帰りたくないんだ。このまま君を帰したくない。
往生際が悪いと言われるかもしれないけれど、君が眠ってくれたことで猶予を貰った気になっている。
だから、もう少しだけ。
一人勝手にそう決めた俺は、アパートのある方でなく、とある場所へと向けてハンドルを切った。
* *
車をとめて、逃げるように外に出る。それを責めるような外気の冷たさに、僅かに身体が強ばった。
小高い丘の上にある大学の前を通り過ぎ、契約している駐車場を横目に、更に緩やかな上り坂を上っていく。
すると道路際に、数台のみ横並びにとめられる駐車場が見えてくる。傍らには自動販売機。その奥には木で組まれた階段が見える。
短いそれを上ると、そこは小さな展望台。数歩先の手すりまで進めば、部室から望めるそれより、いっそう広域の街並みが見渡せる。
静と一緒に行った神社からの夜景にも心を奪われたけれど、ここからの景色もまた別の風情があって素晴らしかった。
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