14.もう一度だけ

7/9

199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 木製の手すりに軽く寄りかかるようにして、俺は眼下に広がるその風景に感嘆の息をつく。  視界の上部を満天の星が、その下を煌めくイルミネーションが埋め尽くしている。眩しいみたいに目を細めながら、俺はコートのポケットから煙草を取り出した。  静は助手席で眠ったままだ。よほど疲れていたのだろう。  とはいえ、今更申し訳なかったと思っても、やっぱり誘わなければ良かったとは思えなかった。 「…………はぁ。……何で俺は……」  彼のこととなると、こんなにも思い通りにいかなくなる。  先の言葉を飲み込んで、抜き出した煙草を口端に添える。  そのまま手すりに頬杖をつくようにして何度目かの溜息をつくと、この期に及んでまだ言えていない言葉を心の中で反芻した。  24日……空いてる?  良かったら、一緒に飲まないか?  たったそれだけのことが何で言えない……。  別に恋人じゃなくたって、お互い予定がないならそうおかしくはないだろう。  思うのに、どうしても口に出せない。 「ねぇ、静……」  視線を俯け、小さく呟く。  吐息がふっと後ろに流れる。  ほら、君がいなければ、言えるのに。 「クリスマス、一緒にどう――?」  自嘲めいた笑みと共に、独りごちる。  そんな自分に呆れたように目を閉じて、細く長い溜息をついた。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加