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木製の手すりに軽く寄りかかるようにして、俺は眼下に広がるその風景に感嘆の息をつく。
視界の上部を満天の星が、その下を煌めくイルミネーションが埋め尽くしている。眩しいみたいに目を細めながら、俺はコートのポケットから煙草を取り出した。
静は助手席で眠ったままだ。よほど疲れていたのだろう。
とはいえ、今更申し訳なかったと思っても、やっぱり誘わなければ良かったとは思えなかった。
「…………はぁ。……何で俺は……」
彼のこととなると、こんなにも思い通りにいかなくなる。
先の言葉を飲み込んで、抜き出した煙草を口端に添える。
そのまま手すりに頬杖をつくようにして何度目かの溜息をつくと、この期に及んでまだ言えていない言葉を心の中で反芻した。
24日……空いてる?
良かったら、一緒に飲まないか?
たったそれだけのことが何で言えない……。
別に恋人じゃなくたって、お互い予定がないならそうおかしくはないだろう。
思うのに、どうしても口に出せない。
「ねぇ、静……」
視線を俯け、小さく呟く。
吐息がふっと後ろに流れる。
ほら、君がいなければ、言えるのに。
「クリスマス、一緒にどう――?」
自嘲めいた笑みと共に、独りごちる。
そんな自分に呆れたように目を閉じて、細く長い溜息をついた。
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