2.君の傍にいるということ

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 クリスマス直前の金曜日――予定ではもう少ししたら、この澄んだ夜空に花火が上がる。  俺は部室の簡単な片付けをしていた手を止めて、開け放っていた窓から望める景色に何気なく目を遣った。  例年にない冬の花火大会。市のお祝いか何かで特別開催されることとなったそのイベントは、必然と部員の帰宅時間を早くした。  まぁ、浮き足立つ気持ちは俺にも分かる。きっと行けば楽しいだろう。気の合う友人や、心の許せる恋人と過ごす特別な時間は、きっと何事にも代え難い。  一応、俺も誘われはしたのだ。「良かったら、将人くんも一緒に行かない?」って。  だけど俺はそれを断った。  ……だってまだ戻ってきていないから。  先生に呼ばれてサークル活動の途中から姿を消した、暮科静が。  別に子供じゃないんだから、置いて帰ったところで問題はなかったと思う。  気になるなら、携帯に一言連絡を入れておくだけでも済んだことだ。  そう思いながらも、気がつくと俺は、他の大勢のメンバーと一緒に花火大会に行くより、静一人を待って一緒に帰る道を選んでいた。  そんな自分の判断が、自分でもよく理解できない。 (……一本、吸おうかな)  俺は無意識にため息をつくと、気持ちを切り替えるように視線を転じた。  部室の中央には、先日、俺が寄付として運び込んでいた真っ白なラウンドテーブルが置いてある。その上には、片付けを始める時に俺が置いた、軽いとは言えない煙草と銀製のジッポライター。  そこまで吸う方ではないけれど、持っていないと落ち着かないと思うくらいには依存している嗜好品。  俺はそれを一本抜き出し、天板で軽く叩いてから口に添えた。その先に、カチンと微かな音を響かせ、構えたジッポで火を点す。  部室は禁煙とはなっておらず、灰皿も一応置いてある。ただ人がいる時はみんなほとんど吸うことはなく、吸うとしても在室が喫煙者のみとなった場合だけだ。  窓から吹き込む冷たい風に紫煙が揺れる。ドアも開けているから、そちらへと抜ける風に自然と流される。  そこに近づく人の気配。
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