15.聖なる夜に

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 ――案の定、静はわりと早めに酔いが回って、そのおかげか、ほどよく緊張も解けたようだった。  あぁ、相変わらずワインはんだな。それでも君が好きだと知っているから、このコースに決めたのも嘘じゃないんだよ。  出されるのがワインと知って、最初は窺うように口を付けた静だったけれど、それも一定量を超えるまでだった。  気がつけばするすると、その薄い唇の合間へと吸い込まれていく(つや)やかな彩り。少しだけゆっくりになった瞬きと、少しだけ増えた口数。時折柔らかく細められる目元はほのかに色づいていて、その様が可愛くもあり、どこか扇情的にも見えた。  それから意識を逸らすように、俺は言葉を継いだ。 「ねぇ、静。気付いてた? ここ……上月グループのホテルなんだけど」 「上月……」 「そう、その上月」 「……道理で」 「やっぱりちょっとアリアに似てるよね」  正しくはアリアの方が似てるのかもしれないけれど。  声を潜めて付言すると、静も「……まぁ、確かに」と小さく頷いた。  このホテルのことを調べたとき、偶然知ったことがある。  静のバイト先である、レストランアリアの店長の名は上月(こうづき)冴子。彼女はその〝上月グループ〟の一員だった。  アリア自体はチェーン展開などはしておらず、それもあってその冴子さんの私物だと揶揄する声も多いようだけど、どのみち同じグループ内の持ち物だ。どこかアンティーク調な佇まいは上月グループのカラーでもあるらしいから、それがアリアにも採用されているのかもしれない。  ……まぁ、それにしては凝っている気もするから、元々それが冴子さんの趣味なのかもしれないけれど。
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