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「俺、こういうクラシカルな雰囲気、結構好きなんだよね」
「へぇ……」
「え、知らなかった?」
ちらりと店内に視線を向けながら、あえて意外そうに言うと、静は持っていたグラスを揺らしながら、「知るかよ」と呆れたように笑った。
そのなんとも言えない表情に、釣られて俺も微笑ってしまう。そのまま俺は当たり前みたいに問いを重ねた。
「でも、静も好きだよね?」
「……は?」
「だから、アリアみたいな感じとか」
「……」
グラスを呷りかけていた静の手が一瞬止まる。その動きはすぐに再開されたけれど、中身を空にしたのち、聞こえてきたのはどこか言い淀むような声だった。
「…………別に」
「え? 何?」
俺は思わず訊き返していた。
すると静は少しだけ考えるような間を置いて、
「……まぁ、嫌いじゃねぇけど」
いっそう落とした声で、溜息混じりにそう言い直した。
……いや、だから何でそこでそんな顔するの。
え、そんなに俺と好みが似てるって認めるのが不本意なの?
またしても何だか拗ねたみたいな表情をされて、俺は静の顔を見つめてしまう。
(あ……でも)
それにしては、そこまで機嫌が悪いわけではないのかな。言葉のわりに眼差しは柔らかいままだし、心なしか頬の赤みが増している……ような気もする。
これってもしかして、拗ねてるっていうより、どちらかと言えば照れてるってやつ……?
「なんだよ」
じっと見られていることに気付いた静が、今度こそ気に入らないみたいに口を尖らせる。
「……いや、なんでもない」
答えながら、俺もワインを呷る。その頬が、緩んでしまうのを隠すように。
案外、静の〝嫌いじゃない〟は〝結構好き〟ってことかもしれない。
もちろん、確信があるわけじゃない。単なる俺の思い込みかもしれない。だけどそう思う一方で、結局破顔してしまうのを止められなかった。
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