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「……ほんとにそれだけかよ」
「もちろんだよ」
「……」
「――って、言いたいところだけど……」
そんな静の反応がおかしくて、思わず含むような言い方をしてしまう。
すると静は今度こそ呆れ果てたように溜息をついた。
「まぁ、予約が取れなかったのは本当だよ」
「どうだか」
「いや、それは本当だって」
「それは」
「ああ、いや、だから……」
これもすでにそこそこ飲んでいるワインのせいだろうか。やけに絡むよね?
俺はこみ上げた笑いに小さく肩を揺らしながら、自分のグラスに目を向ける。
あぁ、どうしよう。何だか妙に気持ちが弾む。
そのせいかな。せっかく向かい合って座っているのに、静の顔が直視できない。
俺は誤魔化すようにグラスを手に取り、そのまま僅かに持ち上げて見せた。
「とりあえず、乾杯しようよ」
促せば、幸い静も大人しく――諦めただけかもしれないが――それに従ってくれた。
ゆっくりと掲げられたそれが、高さを揃え、キスをするみたいに近づいていく。
静かだけれど温かな、どこか非現実的な空気の中、
「――メリークリスマス」
待ちかねたような俺の声と共に、澄んだ音が軽やかに響いた。
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