15.聖なる夜に

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 *  * 「言っときますけど――」  1本目の瓶が空になり、2本目をワインセラーから取って戻ると、静が思い出したように言いながら、じっと俺を見据えてきた。  とは言え、その目端はじわりと赤みを帯びていて、面持ちもすっかり緩んでいる。そんなお世辞にも迫力があるとは言えない眼差しが、それでも俺を捉えて放さずに、 「俺、ほんとに何も返せませんからね」 「? 何? 何の話……?」 「だから、こんなふうに色々してもらっても……俺には、何も……」  それどころか、いっそう釘を刺すみたいに言い募られる。  何を言い出すのかと思ったら……。  俺は新たな瓶を開栓しながら、思わず笑みを滲ませた。  そういえば、プレゼントの話の時にもそんなことを言っていたっけ。  そんなの、本当に気にしなくていいのに。今日だって俺がしたくてやってることだからって、ちゃんと念を押したつもりなのに、やっぱりそこは簡単には割り切れないのかな。  ……まぁ、普段から君はそういうところ、結構きっちりしてるもんね。  俺が先に会計を済ませていても、後々その分返されたりする。あくまでも、一方的に(そこまで)してもらう理由がないからって。  それでも、身体を重ねる前に比べれば、いくらか甘えてくれるようになった……と、思ってはいるんだけど。 「……聞いてんのかよ」 「あぁ、うん。聞いてるよ」  でもね。さすがに今日だけは許してほしい。  君がどう思っているかはわからないけど、俺にとって今夜は本当に特別だから。  例えそれが最初で最後の、仮初めの時間だとしても。  だとしても……いや、だからこそ俺は、その時間(幸せ)を君と共有したい。  俺がこの未来(さき)へと向かうための、糧になるような思い出がほしいんだ。 (……わがままでごめんね)  そんな気持ちをひた隠し、俺は柔らかな笑みを浮かべたまま、静のグラスにワインを注ぐ。
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