15.聖なる夜に

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「俺、言ったよね。気にしないでほしいって。今夜は特に、俺が無理言って付き合ってもらったんだから」 「無理って……」 「それだけで充分だよ」  ……うん。本当にそれで充分なのだ。  クリスマス(今日)という特別な日を、特別な関係でもない君と過ごせている。  言葉も気持ちも交わさないまま、まるで初々しい恋人みたいに、いつもより少しだけ豪華な食事をして、少しだけいい部屋で乾杯をする。  どこか非日常的な空間で、大好きなワインを楽しんだあとは、頃合いを見て、美しい夜景の望めるお風呂に一緒に入る――なんて夢も見られるしね。  そう、そんなばかげたことを考えられるほど、時間だってまだたっぷりあるのに、これ以上俺に何を望めるというのだろう。 「……でも、それだって」 「ん?」  なのに、静はなおも俺の手元を指さしてくる。  俺はその先を辿り、持っていた瓶のラベルに視線を落とした。 「そこに書いてある年……」 (……よく見てるな)  一応、あまりラベルが見えない角度で持っていたつもりのそれを、静はしっかり読みとっていたらしい。  そこに印字されていたのは、静の誕生年と同じ4桁の数字。  ……まぁ、うん。  これは確かに、俺があらかじめ手配しておいたワインだ。  でもそうやって、よけい気にされても嫌だなと思っていたから、あえて言うつもりもなかったんだけどね。 「……あと、誕生日だって」 「誕生日?」 「アンタの誕生日だって……。俺、一度も……」 「え……あっ」  俺は慌てて傾けていた瓶を起こした。  ……しまった。少々入れすぎてしまった。  だって、だってまさか、君がそんなことを言うなんて。  今まで一度も俺の誕生日に触れたことのない君が、実はそのことをちゃんと気にしてくれていたなんて、夢にも思わなかったから――。
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