199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
「俺、言ったよね。気にしないでほしいって。今夜は特に、俺が無理言って付き合ってもらったんだから」
「無理って……」
「それだけで充分だよ」
……うん。本当にそれで充分なのだ。
クリスマスという特別な日を、特別な関係でもない君と過ごせている。
言葉も気持ちも交わさないまま、まるで初々しい恋人みたいに、いつもより少しだけ豪華な食事をして、少しだけいい部屋で乾杯をする。
どこか非日常的な空間で、大好きなワインを楽しんだあとは、頃合いを見て、美しい夜景の望めるお風呂に一緒に入る――なんて夢も見られるしね。
そう、そんなばかげたことを考えられるほど、時間だってまだたっぷりあるのに、これ以上俺に何を望めるというのだろう。
「……でも、それだって」
「ん?」
なのに、静はなおも俺の手元を指さしてくる。
俺はその先を辿り、持っていた瓶のラベルに視線を落とした。
「そこに書いてある年……」
(……よく見てるな)
一応、あまりラベルが見えない角度で持っていたつもりのそれを、静はしっかり読みとっていたらしい。
そこに印字されていたのは、静の誕生年と同じ4桁の数字。
……まぁ、うん。
これは確かに、俺があらかじめ手配しておいたワインだ。
でもそうやって、よけい気にされても嫌だなと思っていたから、あえて言うつもりもなかったんだけどね。
「……あと、誕生日だって」
「誕生日?」
「アンタの誕生日だって……。俺、一度も……」
「え……あっ」
俺は慌てて傾けていた瓶を起こした。
……しまった。少々入れすぎてしまった。
だって、だってまさか、君がそんなことを言うなんて。
今まで一度も俺の誕生日に触れたことのない君が、実はそのことをちゃんと気にしてくれていたなんて、夢にも思わなかったから――。
最初のコメントを投稿しよう!