*16.星影さやかに

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 誘ったのは俺なのに、これはさすがに失礼だよね。  そう思いながらも、さっきからずっと鼓動はうるさいばかりで、嬉しいのに困るみたいな心境からなかなか抜け出せない。 「嫌ならいいです」  すると堪えかねたように、静が顔を背けて席を立った。  深い溜息と共に、独りごちるように重ねられる。   「つーか……冗談なら冗談で、もっと分かりやすく――」 「ごめん。冗談じゃない」  俺はその手をとっさに掴んだ。思うより先に身体が動いていた。 「ごめんね」  謝罪を重ねて微笑むと、とっさに俺を見た静が再び視線を俯ける。    ほんとごめん。そんなふうに思わせて。  本当はいつだって本気なのに、どうしてもはぐらかしてしまいそうになるんだ。  特に君のこととなると、簡単には信じられないと思ってしまって――。  でも、それじゃだめだよね。  少なくとも今夜くらいは、俺も素直にならないと。 「外に張り出したビューバスだから、夜景も部屋の中よりきっと楽しめるよ」  俺は誘うように声をかけ、改めて浴室の方へと目を遣った。静の反応は薄かったが、触れている手が振りほどかれることもなかった。 「――行こう。一緒に」  彼へとまっすぐ向き直り、促すように軽くその手を持ち上げる。  ややして、微かに頷いたように見えた静の目尻が、淡く染まっている気がしたのはワインのせいだけじゃないはずだ。  長めの髪から覗く耳の先も、じわりと熱を帯びたみたいに赤くなっている――それもきっと錯覚じゃないよね。  ……でもね。君は今更って言ったけど……。  分かってる?   こんなまるで恋人みたいに……一緒にお風呂に入るなんて、今夜が初めてのことなんだよ。
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