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……あぁ、本当に俺は、静に対しては強気にいけなくなっているな。
「……何、だよ」
苦笑気味に漏らした吐息が、その耳を掠めたのか、くすぐったいように小さく首を竦めた静が、怪訝そうに俺を見た。
俺はとっさに微笑むと、
「いや……ほら」
「……?」
〝恋人みたいじゃない?〟
口を突きかけた言葉をすんでのところで飲み込んで、何でも無いみたいに言葉を換えた。
「……きれいだなぁと思って」
「あぁ、夜景? ……それはまぁ、確かに」
俺が眩しいみたいに目を細めると、静は窓の外へと視線を戻し、こくんと素直に頷いた。
……いや、違うんだなぁ。
俺が本当に言いたかったのはそれじゃないし……きれいだと言ったのは君のことだからね。
「――ねぇ、静」
俺は改めて静の頭に頬を寄せ、おもむろにその腹部へと手を這わす。
薄付きながらも、しっかりと筋肉を纏った美しい身体。しなやかで無駄のないそれに、もう何度触れただろう。
「な、に……擽ったいんだけど」
続けて円を描くように動かせば、ひく、と静の呼吸が僅かに乱れた。
控えめな照明だけが頼りの、暗がりの中ではあるけれど、幸か不幸かお湯の透明度は高く、おかげで水面下でも輪郭が見えないわけじゃない。
お臍の上で手を止めて、確かめるようにその窪みを指で辿ると、
「ちょ……」
とたんに静の口から戦慄くみたいな吐息が漏れて、それがじわりと俺に火を灯す。
「――ねぇ、静」
俺は再度名を呼んで、その耳元で囁いた。
「ふれても、いいよね」
「……もう、ふれてるだろ」
「このまま……抱いてもいい?」
「っ……ここで……?」
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