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「吸ってみる?」
戯れに首を傾げてみせると、静は一瞬目を瞠った。
どうせ呆れたふうに一蹴されて終わりだ。
彼はまだ煙草を知らない。さほど興味もないと言っていた。
それなのに、静はそのまま俺の方へと踏み出した。
距離を詰め、俺の顔から煙草へと視線を移し、その手元へと、誘われるように顔を寄せてくる。
一本一本は細いけれど、意外と長い睫毛が目元に影を落としていた。間近で見るからこそ分かる。それがいっそう気怠げに伏せられて――。
「……苦」
そして静はひとくちだけ、俺の煙草を吸った。
僅かに眉根が寄っていた。薄い唇の隙間から、舌先が小さく覗いたのが見えた。
(――!)
どくん、と。
これまでにないほど、心臓が大きな音を立てた。
「あ、花火」
静の視線が、俺を通り過ぎて背後の窓外へと向いた。
聞こえてくる音はさほど大きくはない。けれども、確かに花火だと分かる音が辺りに響き始めていた。
静は俺の横をすり抜け、窓際へと進んだ。
反して俺は、取り残されたように、しばしその場で煙草を見詰めるばかり……。
――今、何が起こったんだろう。
半ば呆然とした心地のまま、花火を見詰める静を振り返る。
視界の端で、いつのまにか伸びていた灰に気付く。あ、落ちる。他人事のように思って、ポケットから携帯灰皿を取り出した。
灰を弾き、そのままその火を消そうか逡巡する。逡巡したのち、
「……綺麗だね」
辛うじて絞り出した言葉に次いで、そっとそれを唇に寄せた。
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