2.君の傍にいるということ

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「吸ってみる?」  戯れに首を傾げてみせると、静は一瞬目を瞠った。  どうせ呆れたふうに一蹴されて終わりだ。  彼はまだ煙草を知らない。さほど興味もないと言っていた。  それなのに、静はそのまま俺の方へと踏み出した。  距離を詰め、俺の顔から煙草へと視線を移し、その手元へと、誘われるように顔を寄せてくる。  一本一本は細いけれど、意外と長い睫毛が目元に影を落としていた。間近で見るからこそ分かる。それがいっそう気怠げに伏せられて――。 「……(にが)」  そして静はひとくちだけ、俺の煙草を吸った。  僅かに眉根が寄っていた。薄い唇の隙間から、舌先が小さく覗いたのが見えた。 (――!)  どくん、と。  これまでにないほど、心臓が大きな音を立てた。 「あ、花火」  静の視線が、俺を通り過ぎて背後の窓外へと向いた。  聞こえてくる音はさほど大きくはない。けれども、確かに花火だと分かる音が辺りに響き始めていた。  静は俺の横をすり抜け、窓際へと進んだ。  反して俺は、取り残されたように、しばしその場で煙草を見詰めるばかり……。  ――今、何が起こったんだろう。  半ば呆然とした心地のまま、花火を見詰める静を振り返る。  視界の端で、いつのまにか伸びていた灰に気付く。あ、落ちる。他人事のように思って、ポケットから携帯灰皿を取り出した。  灰を弾き、そのままその火を消そうか逡巡する。逡巡したのち、 「……綺麗だね」  辛うじて絞り出した言葉に次いで、そっとそれを唇に寄せた。
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