*16.星影さやかに

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「ぃ……っ、――!」 「……っ」  自身にも浮いていたぬめりを頼りに、沿うように口を開けた入り口を更に押し開く。狭い胎内(なか)へと分け入っていく充溢が、痛いくらいに締め付けられる。  静の喉から引き攣った呼気が漏れ、信じ難いように見開かれた瞳が、堪えるように再びぎゅっと閉じられた。 「ぁ……、っ…………!」  強引に全てを収めきると、静の背筋がしなやかに弧を描き、俺の肩口でその頭がふるりと揺れた。 「ごめん……我慢できなかった」  は、と短く息を吐くと、乱れてこぼれ落ちた俺の長い金髪が静の頬を掠めた。  頼りない動きで持ち上げられた静の手が、それを厭うみたいに指で探り、まるで仕返しするみたいに毛先をくっと引っ張ってくる。あまり力は入っていないけれど、そんな理性的なところも全部愛しい。 (……何か言いたそうだね)  静のことだから、きっと「ふざけんな」とか「最悪」とか……もしかしたら、「嘘つき」とか思っているのかもしれない。  だとしても俺は嬉しいんだけどね。だっていまの俺は、君が俺のことを考えてるってだけで幸せになれるんだから。 「……ごめん、動くね」 「っ! ぁ、待っ……ぃ、ん……っ」  俺は改めて静の身体に腕を回すと、後ろから優しく、強く抱きしめながら、彼の体温をゆっくり掻き混ぜ始めた。  口を突いた嬌声が浴室内で反響し、遅れて、それを取り消したいみたいに詰められる息。  それでも最奥を突き上げるたび、眼下で戦慄く唇は俺を誘っているようにしか見えない。  ……ああ、たまらない。  今すぐ君にキスしたい。  その唇に自分のそれを重ねて、角度を変えて何度も食んで。  合わせをつついて、薄く開かせ、滑り込ませた舌先で綯交ぜの温度を共有したい。  ……だけど俺にはそれができない。その資格がないのはわかっている。  できないキスの代わりに、俺は俺の髪を掴んだままの静の指先にそっと唇を寄せた。
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